はじめに

  • -1-

    はじめに

    アトピー性皮膚炎の疾患概念および 治療概念に関して、かって様々な情報が錯綜して多大の混

    乱がみられ社会問題化の様相を呈し たこともあった。現在は、治療ガイドライン等を通じて本症

    の実態や治療に関しては共通した理解が普及し当時の混乱は沈静化している。しかし、アトピー

    性皮膚炎の多くが乳児期に発症し寛 解・悪化を繰り返しながら長期間持続することには変わりは

    ない。

    アトピー性皮膚炎は痒みが強い湿疹 であり、その症状から患者は強い苦痛を覚えQOLは著しく

    損なわれる。また、身体的、精神的、知的発育に最も重要な乳幼児期、学童期、思春期に罹患期

    間が一致することから、本症の発症がこれらの発育に障害となることがあれば患者は大きな不利

    益を被る。成人患者においても日常生活あるいは社会的活動に支障があれば生活の質は大きく低

    下する。これらは患者にとって不利益であることは無論のこと、社会的にも人材の損失となる。

    また、厚生労働省のアレルギー対策においてはアトピー性皮膚炎は"自己管理できることを目指

    す疾患"として位置づけられているが、それを目指し患者のQOLの向上のためには医師による治

    療のみならず、コメディカルによる情報伝達・助言・治療の介助などを通して適切な治療環境を

    整えることが大切である。この点においてコメディカルの役割はきわめて重要である。

    本ガイドブックはコメディカルのアトピー性皮膚炎に関する理解の向上を目指し、患者への適

    切な対応を支援することを目的として作成さ れた。本ガイドブックがその一助になれば幸いであ

    る。

    なお、本ガイドブックは厚生労働科学研究による「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」

    および日本アレルギー学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2006」に基づいて作成さ

    れている。

    平成18年12月

    広島大学名誉教授

    山本昇壯





    -2-

    アトピー性皮膚炎はどのような疾患ですか?(概念・定義)

    アトピー性皮膚炎は「増悪・寛解を繰り返す q 痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、

    患者の多くはアトピー素因を持つ(日本皮膚科学会)」と定義されている。すなわち、ア

    トピー性皮膚炎は長期間持続する痒 みの強い湿疹(図2、Q.8参照)であり、患者の多くはアトピ

    ー素因といわれる体質を背景

    に発症する。

    アトピー素因とは、①気管支喘息

    、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎などの家族

    歴・既往歴があるか、あるいは②IgE抗体を産生しやすい体質をいう。すなわち、アトピー性皮

    膚炎は気管支喘息 やアレルギー性鼻炎・結膜炎等と発症の基本的なメカニズムにおいて共通した

    ところがあり、これらの疾患を合併しやすい(図1)。

    一方、アトピー性皮膚炎には2つのタイプがあるとの考えもある。1つはIgE抗体を産生しやす

    いタイプで70~80%はこのタイプといわれている。他の20~30%はIgE抗体をあまり産生しない

    タイプと考えられている。しかし、これら両者にどのような基本的な違いがあるのかは、現在の

    ところ明らかではない。

    A

    A

    アトピー性皮膚炎

    アレルギー性鼻炎

    気管支喘息

    図1.アトピー性皮膚炎と気管支喘息・アレルギー性鼻炎との関係

    アトピー性皮膚炎は気管支喘息

    やアレルギー性鼻炎などと発症のメ カニズムに共通した部分がある。これ

    らの疾患はそれぞれ合併しやすい。

    Q1

    Q1





    -3-

    アトピー性皮膚炎の発症と炎症のメカニズムについて教えて下さい 。(病態生理)

    アトピー性皮膚炎は湿疹の一種であ り、アトピー素因にいろいろな環境要因が加わって発

    症すると考えられている。その湿疹の症状はいろいろな皮疹から構成されている(図2)。

    そして、その湿疹を起こしている炎症にはさまざまな細胞が関与している(図3)。また、アトピ

    ー性皮膚炎の炎症には皮膚の性状も大きく関与する。

    A

    A

    Q2

    Q2

    治癒

    膿疱

    (膿の水ぶくれ)

    小水疱

    (小さな水ぶくれ)

    丘疹

    (ぶつぶつ)

    紅斑

    (赤み)

    湿潤

    (じくじく)

    結痂

    (かさぶた)

    苔癬化

    (ごつごつ)

    落屑

    (ぽろぽろした皮膚のはがれ)

    RANTES

    IFN‑

    γ

    湿疹がないところ

    急性の湿疹

    慢性の湿疹

    MC

    MC

    n

    IL‑5

    IL‑12

    IL‑12

    MC

    DC

    DC

    LC

    LC

    LC

    LC

    LC

    LC

    DC

    Th0

    Th0

    Th0





    LC

    Th2

    Th2

    Th2

    Th2

    Thp

    Th2

    B

    N

    Eo

    Eo

    Eo

    Th2

    N

    Th2

    Th2

    Th1

    Th1

    抗原

    血管

    引っ掻き

    IL‑18

    GM‑CSF

    TNF‑α

    TSLP

    SP

    IL‑4

    Histamine

    LTB4

    TNF‑α

    IL‑4

    etc.

    IL‑5

    IL‑13

    TNF‑α

    IL‑4

    IL‑10

    IFN‑γ

    IL‑4

    IL‑13

    IL‑5

    TARC

    MDC

    IgE

    production

    ICAM‑1

    VCAM‑1E‑selectin

    CLA+

    G

    M

    ‑C

    SF









    図3.アトピー性皮膚炎の炎症機構

    LC: ランゲルハンス細胞、DC: 樹状細胞、MC: マスト細胞、Thp/Th0: Thp/Th0細胞、

    Th1/Th2: Th1/Th2細胞、B: B細胞、Eo: 好酸球、N: 好中球、Mφ: マクロファージ。

    図2.湿疹を構成する皮疹

    湿疹は経過に伴っていろいろな皮疹から構成される。





    -4-

    1)アトピー性皮膚炎の炎症に関与する主な細胞

    ①T細胞

    T細胞はアトピー性皮膚炎の炎症において中心的な役割をもつリンパ球の1つである。炎症の初

    期の段階ではTh2細胞と呼ばれる リンパ球が重要であり、慢性期の炎症ではTh1細胞も関与する。

    本症の炎症ではTh2やTh1細胞 が産生するIL‑4、IL‑5、IL‑13あるいはIFN‑γやIL‑12などのサイトカ

    インが重要な役割を担っていると考えられている。

    ②抗原提示細胞(ランゲルハンス細胞、樹状細胞)

    アトピー性皮膚炎の皮膚では高親和 性IgE受容体(FcεRⅠ)といわれる分子を多く発現しIgE

    を結合しているランゲルハンス細胞

    (Langerhans cell: LC)あるいは樹状細胞(inflammatory

    dendritic epidermal cell: IDEC)が多く存在することが知られている。これらは皮膚に湿疹病変が

    生じることに重要な働きをしていると考えられている。

    ③ケラチノサイト(角化細胞)

    皮膚の最上層に存在するケラチノサイトの重要な機能の一つは角化して角層を形成し体表面を

    防御すること(バリア機能)である。加えて、ランテス(RANTES)などの炎症に関与する物質

    あるいはTh2型の炎症を誘

    発するTSLP(thymic stromal lymphopoietin)やIL‑18を産生する。掻く

    ことによって皮膚炎が悪化することの説明の1つと考えられる。

    表皮ケラチノサイトは皮膚表面の病原体の増殖を抑制する抗菌ペプチドと呼ばれる物質を産生

    している。アトピー性皮膚炎ではその産生が低下しており皮膚に感染が起きやすい(易感染性)

    ことの原因の1つと考えられている。

    ④マスト細胞、好酸球、好中球、単球など

    マスト細胞はIgE抗体を付着して抗原と反応するとヒスタミンやロイコトリエンなどの炎症性

    化学伝達物質を遊離したりサイトカインを産生してアトピー性皮膚炎の炎症に関与する。好酸球

    などその他の細胞も総合的に炎症に関与する。

    2)アトピー性皮膚炎の皮膚の性状

    アトピー性皮膚炎の皮膚ではバリア 機能(外部から有害物質や刺激が体内に侵入することを防

    いだり皮膚から水分などが失われな いようにする皮膚の働き)の低下がみられる。そして水分保

    持能の低下(皮膚の水分を保つ機能の低下)、痒みの閾値の低下(わずかな刺激で痒みが生じる)、

    易感染性(感染が起きやすい)などの皮膚の機能異常がみられ、本症の病態と強く関連している

    と考えられている。





    -5-

    アトピー性皮膚炎の発症要因につい て教えて下さい。(病因)

    アトピー性皮膚炎は個人の素因(アトピー素因)にいろいろな環境因子が合わさって発症

    すると考えられている。

    1)遺伝的要因(個体要因)

    アトピー性皮膚炎の発症に関わる素 因は遺伝する傾向がみられる。両親に本症の既往がある場

    合は75%、両親のどちらかに既往がある場合は56%、同胞に既往がある場合は49%、家族に既往

    が全くみられない場合は21%の確率で子供が発症する可能性があることが推測されるとの調査報

    告がある。また、一卵性双生児が発症する一致率は0.72~0.86、二卵性双生児のそれは0.21~0.23

    であったとの報告もみられる。

    2)発症・悪化因子

    アトピー性皮膚炎の発症や悪化に関わる因子には多くのものが考えられているが、その重要性

    は個人個人で異なる(図9、Q.11参照)。治療に際してはそれらを適切に把握することが重要であ

    る。本症の発症や悪化にはアレルギ

    ーは重要な要因であるが、掻破(機

    械的刺激)やストレス

    (神経要因)などの非アレルギー性の要因も重要である(図4)。掻破は最大の悪化因子である。

    A

    A

    Q3

    Q3

    Th0

    MC

    Thp

    MC

    n

    Th2

    LC

    LC

    LC

    LC

    DC

    抗原

    IL‑4

    Histamine

    LTB4

    TNF‑α

    アレルギー機序

    非アレルギー機序

    IL‑18

    TSLP

    引っ掻き

    神経

    神経

    IL‑5

    IL‑13

    TNF‑α

     破などの

    機械的刺激

    ストレスなどの

    神経要因

    SP









    図4.アトピー性皮膚炎の発症・悪化要因

    アトピー性皮膚炎の発症・悪化にはアレルギー機序のみならず非アレルギー機序である掻破などの機械的

    刺激やストレスなどの神経要因も重要である。





    -6-

    わが国のアトピー性皮膚炎の有症率について教えて下さ い。(患者数の実態)

    アトピー性皮膚炎の患者数の実態を 知ることは、医療および医療行政上きわめて重要であ

    る。平成12~14年度に実施された厚生労働科学研究による全国規模の調査では、本症の全

    国平均有症率は4カ月児;12.8%、1歳半児;9.8%、3歳児;13.2%、小学1年生;11.8%、小学6年

    生;10.6%、大学生;8.2%であった(健診総人数は48072人)(図5)(平成12~14年度厚生労働科

    学研究費補助金免疫アレルギー疾患 予防・治療研究事業「アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び

    発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究」より)。また、東京大学職員を対象とした成人

    の有症率は20歳代では10.2%、30歳代では9.0%、40歳代では4.1%、50~60歳代では 2.4%であっ

    た(図6)(平成15~17年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業

    「アトピー性皮膚炎の有症率調査法の確立および有症率低下・症状悪化防止対策における生活環境

    整備に関する研究」より)。この有症率調査は専門医の直接の健診によって行われたものであり信

    頼性はきわめて高い。

    A

    A

    Q4

    Q4







    4







    1







    3









    1









    6











    12

    12.8

    9.8

    13.2

    11.8

    10.6

    8.2

    (%)

    8

    4

    0

    図5.アトピー性皮膚炎の全国平均有症率(平成12~14年度厚生労働科学研究疫学調査より)

    社団法人日本アレルギー学会

    アトピー性皮膚炎ガイドライン専門 部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン

    2006(監修:山本昇壯/河野陽一),協和企画,2006より引用改変







    20





    30





    40





    50



    60





    12

    10.2

    9.0

    4.1

    2.4

    (%)

    8

    4

    0

    図6.アトピー性皮膚炎の有症率(健診対象:東京大学職員、平成15~17年度厚生労働科学研究疫学調査より)

    社団法人日本アレルギー学会

    アトピー性皮膚炎ガイドライン専門 部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン

    2006(監修:山本昇壯/河野陽一),協和企画,2006より引用改変





    -7-

    重症度別の割合について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎と診断されてもその症状の程度はさまざまである。厚生労働科学研究に

    よる「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2001」の重症度分類(表 4、Q.7参照)に従って

    年齢別に症状の程度(重症度)の割合をみると、幼児期では患者のおよそ85%は軽症で中等症は

    12%程度であるが、学童期以降では軽症患者の割合は73%程度に減少し中等症の患者は約24%に

    増加している(図7)(平成12~14年度厚生労働科学研究費補助金免疫アレルギー疾患予防・治療

    研究事業「アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研

    究」より)。このことは、学童期においては何らかの悪化要因が存在する可能性を示唆するが、現

    在のところその要因については明ら かではない。この調査では学童期になると医療機関への受診

    の頻度が減少していることが示され ている。必要な治療が適切に行われていない可能性もあり、

    そのことも悪化要因の1つかもしれ ない。また、小学校でのシャワー浴によって症状の明らかな改

    善がみられることが示されているが (図11、Q.11、Q.13参照)、学校での汗などによる皮膚の汚

    れの増加もその要因かもしれない。

    A

    A

    Q5

    Q5













    30

    20

    10

    90

    80

    70

    0

    (%)

    1







    3









    1









    6











    軽症

    中等症

    重症

    最重症

    図7.アトピー性皮膚炎の重症度別割合

    幼児期から学童期に移行すると症状が悪化する傾向がみられる。

    (平成12~14年度厚生労働科学研究疫学調査より)





    -8-

    アトピー性皮膚炎の診断について教えて下さい。

    治療に際しては当然のことながら診 断が正しくなければならない。アトピー性皮膚炎の診

    断にはいくつかの基準が提唱されて いるが、わが国では主として日本皮膚科学会の診断基

    準(表1)と厚生省心身障害研究の診断基準(表2)が用いられている。基本的には両者に差異は

    ない。診断に際しては類似の症状を示す湿疹・皮膚炎群を鑑別することが重要である。

    A

    A

    Q6

    Q6

    表1.アトピー性皮膚炎の定義・診断基準(日本皮膚科学会)

    アトピー性皮膚炎の定義(概念)

    「アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、 q 痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多

    くはアトピー素因を持つ。」

    アトピー素因:①家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のう

    ちのいずれか、あるいは複数の疾患)、または②IgE抗体を産生しやすい素因。

    アトピー性皮膚炎の診断基準

    1. q 痒

    2.特徴的皮疹と分布

    ①皮疹は湿疹病変

    ●急性病変:紅斑、湿潤性紅斑、丘疹、漿液性丘疹、鱗屑、痂皮

    ●慢性病変:浸潤性紅斑、苔癬化病変、痒疹、鱗屑、痂皮

    ②分布

    ●左右対側性

    好発部位:前額、眼囲、口囲・口唇、耳介周囲、頸部、四肢関節部、体幹

    ●参考となる年齢による特徴

    乳児期:頭、顔にはじまりしばしば体幹、四肢に下降。

    幼少児期:頸部、四肢屈曲部の病変。

    思春期・成人期:上半身(顔、頸、胸、背)に皮疹が強い傾向。

    3.慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する)

    乳児では2カ月以上、その他では6 カ月以上を慢性とする。

    上記1、2、および3の項目を満たすものを、症状の軽重を問わずアトピー性皮膚炎と診断する。

    そのほかは急性あるいは慢性の湿疹 とし、経過を参考にして診断する。

    除外すべき診断

    ●接触皮膚炎  ●脂漏性皮膚炎  ●単純性痒疹  ●疥癬  ●汗疹  ●魚鱗癬

    ●皮脂欠乏性湿疹 ●手湿疹(アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため)

    診断の参考項目

    ●家族歴 (気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎)

    ●合併症(気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎)

    ●毛孔一致性丘疹による鳥肌様皮膚 ●血清IgEの上昇

    臨床型(幼小児期以降)

    ●四肢屈側型●四肢伸側型●小児乾燥型 ●頭・頸・上胸・背型●痒疹型●全身型

    ●これらが混在する症例も多い

    重要な合併症

    ●眼症状(白内障、網膜剥離など):とくに顔面の重症例

    ●カポジ水痘様発疹症 ●伝染性軟属腫 ●伝染性膿痂疹

    日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎の定義・診断基準」.日皮会誌 1994;104:1326.より引用





    -9-

    表3 に診断の参考になる検査を示すが、検査値のみからアトピー性皮膚炎と診断できる検査法

    はない。診断にはあくまでも臨床症状が重要である。

    表2.アトピー性皮膚炎の診

    断の手引き(厚生省心身障害研究)

    Ⅰ.アトピー性皮膚炎とは

    アトピー性皮膚炎とは、主としてアトピー性素因のあるものに生じる、慢性に経過する皮膚の湿疹病

    変である。このため、本症の診断に当たっては、いまだ慢性経過の完成をみていない乳児の場合を考慮

    し、年齢に対する配慮が必要である。

    注)アトピー素因とは気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の病歴または家族歴を持つも

    のをいう。

    Ⅱ.アトピー性皮膚炎の主要病変

    1.乳児について

    a.顔面皮膚または頭部皮膚を中心とした紅斑または丘疹がある。耳切れがみられることが多い。

    b.患部皮膚に掻破痕がある。

    注)紅斑:赤い発疹丘疹:盛り上がった発疹  º 破痕:掻き傷の痕

    2.幼児・学童について

    a.頸部皮膚または腋窩もしくは膝窩の皮膚を中心とした紅斑、丘疹または苔癬化病変がある。

    耳切れがみられることが多い。

    b.乾燥性皮膚や粃糠様落屑を伴う毛孔一致性角化性丘疹がある。

    c.患部皮膚に º 破痕がある。

    注)苔癬化:つまむと硬い、きめの粗い皮膚  粃糠様落屑:米ぬか様の皮膚の断片

    Ⅲ.アトピー性皮膚炎の診断基準

    1.乳児について

    Ⅱ‑1に示す病変のうちa、bの双方を満たし、[別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除

    外したものをアトピー性皮膚炎とする。

    2.幼児・学童について

    Ⅱ‑2に示す病変のうちaあるいはb、およびcの双方、並びに下記のイ)、ロ)の条件を満たし、

    [別表]に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合を除外したものをアトピー性皮膚炎とする。

    イ)皮膚に痒みがある。

    ロ)慢性(発症後6か月以上)の経過をとっている。

    [別表]以下に示す皮膚疾患を単独に罹患した場合はアトピー性皮膚炎から除外する。

    1)おむつかぶれ  2)あせも  3)伝染性膿痂疹(とびひ)4)接触皮膚炎(かぶれ)

    5)皮膚カンジダ症  6)乳児脂漏性皮膚炎  7)尋常性魚鱗癬(さめはだ)8)疥癬

    9)虫刺され  10)毛孔性苔癬

    表3.アトピー性皮膚炎診

    断の参考となる検査

    ●一般血液検査(白血球数、好酸球数など)

    ●血清総IgE値

    ●アレルゲン特異IgE抗体価

    ●皮膚テスト (プリックテスト、パッチテスト)など

    厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」より引用

    厚生省心身障害研究:アトピー性皮膚炎の診断の手引き(厚生省児童家庭局母子衛生課監修),アトピー性皮膚炎生活指導ハンド

    ブック,南江堂,1994.より引用





    -10-

    皮膚症状の程度の評価について教え て下さい。(重症度)

    アトピー性皮膚炎の治療は症状の程度に応じて適切に選択することが大切である。そのた

    めには、症状の程度(重症度)の的確な評価が必要である。重症度の評価基準にはいくつ

    かの方法が提唱されているが日常診療での使用には多少繁雑な場合もあり、厚生労働科学研究によ

    る治療ガイドラインではより簡便な 「重症度のめやす」を用いている。この基準では重症度を皮疹

    の性状および炎症の強さと皮疹の占 める面積を総合的にみて、軽症、中等症、重症、最重症の4段

    階で評価することとしている(

    表4 )。ちなみに軽症はステロイド外用薬など積極的な抗炎症療法を

    必要としない程度の症状であり、最重症は原則として入院治療を必要とする程度の症状をいう。

    アトピー性皮膚炎の臨床症状について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎の症状は様々な皮 疹が混在している湿疹である(図2、Q.2参照)。その

    症状は年齢によって違いがみられる 。皮疹は全身どこにでも出現するが年齢によって生じ

    やすい部位がある(好発部位)。

    1)乳児期の皮疹:小児アトピー性皮膚炎の多くは乳児期に発症する。口囲、顎、頬部、耳前部、

    頸部など汚れや刺激を受けやすい部 位が悪化しやすい。肘の内側(肘窩)、膝の裏側(膝窩)、

    手首、足首などにも生じやすい。ジクジクした湿潤傾向が強い。

    2)幼児期の皮疹:一般に皮疹はカサカサした乾燥傾向が強くなりドライスキンとなる。毛孔に一

    致した丘疹(ブツブツ)もみられる(鳥肌様皮膚)。肘窩、膝窩の湿潤性紅斑が目立つ。

    3)学童期の皮疹:乾燥傾向がより強くなる。肘窩、膝窩の湿疹もゴツゴツした苔癬化傾向が著明

    となる。

    4)思春期・成人期の皮疹:顔面や上胸部の皮疹が目立つようになる。特に顔面の紅斑(赤み)が

    目立つことがある。

    5) q 痒(痒み)

    アトピー性皮膚炎の痒みはきわめて 強く、本症に特徴的な症状の一つである。

    A

    A

    A

    A

    表4.重症度のめやす

    軽 症:面積にかかわらず、軽度の皮疹のみみられる。

    中等症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%未満にみられる。

    重 症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の10%以上、30%未満にみられる。

    最重症:強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上にみられる。

    厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」より引用

    Q7

    Q7

    Q8

    Q8





    -11-

    アトピー性皮膚炎の発症、経過、予後について教えて下さい。

    1)発症:アトピー性皮膚炎は乳児期から成人期までいずれの年齢でも発症しうるが、乳

    児期の発症が最も多く30歳代以降 の発症は稀である。思春期・成人期の発症には乳幼児期

    のアトピー性皮膚炎が一旦治癒

    した後に何らかの誘因によって再発した場合が含まれていること

    がある。

    2)経過:アトピー性皮膚炎は長期的には寛解に向かう疾患である。しかし、経過中にはいろいろ

    な要因によって寛解・悪化の変動あ

    るいは反復がみられる。例えば、季

    節による症状の変動

    (学童では冬季と夏期に悪化がみられるが、寛解は主に夏期にみられるといわれる)、年次ごと

    の変動、加齢による変動、生活環境中の悪化因子による急性の増悪、あるいは何らかの要因に

    よる重症・難治化などがみられる。治療状況も経過に大きく影響する。これらの変動は個々の

    患者によって異なる。

    3)予後:アトピー性皮膚炎の予後調査では、調査対象あるいは調査方法などの違いによって必ず

    しも同じような結果は得られていな い。例えばわが国で、自然寛解に至っていると考えられる

    患者を対象とした調査では、自然寛解は2~3歳ごろからみられ8~9 歳ごろで50%に達し、16歳

    を過ぎると全体の約90%が自然寛解するとの報告がみられる。また、小学校入学前におよそ

    68%は自然寛解し、小学校入学時にアトピー性皮膚炎であった患児の約半数は卒業までに自然

    寛解するとの報告もみられる。一方外国の調査では、乳児期に発症したアトピー性皮膚炎のう

    ち乳幼児期に症状が消失したのは1 1%、思春期までに消失したのは25%で残りの64%は症状が

    成人まで持続したとの報告がみられる。

    思春期・成人期のアトピー性皮膚炎の予後に関する調査研究は少ない。Q.4 図6にみられるよう

    に、40歳代以降では加齢に従って有症率は著明に減少している。このことは少なくとも40歳代以

    降では明らかに自然寛解がみられる ことを示唆している。いずれにしてもアトピー性皮膚炎は自

    然寛解がみられる疾患と考えられる。

    アトピー性皮膚炎の基本的な治療について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎が急性・慢性の炎症でその症状は湿疹であること、その発症や悪化には

    アトピー素因に加えて多くの因子が 関与すること、本症の皮膚は乾燥しバリア機能の低下

    などその性状に異常があることなど に基づいて、アトピー性皮膚炎の基本的な治療は①原因・悪

    化因子の検索と対策、②スキンケア(皮膚機能異常の補正)、③薬物療法の3点から組み立てられ

    A

    A

    A

    A

    Q9

    Q9

    Q10

    Q10





    -12-

    ている(図8)。

    これらの3点はどれも同等に重要で 、それぞれの症状に応じて適切に組み合わせる。なお、治療

    にさいしては患者や家族と医師あるいは他の医療スタッフとの間で治療に関する情報交換を十分

    に行い、相互に良好なパートナーシップ、信頼関係が築かれていることが大切である。

    アトピー性皮膚炎の原因 ・悪化因子の検索と対策について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎の代表的な原因・悪化因子としては図9(Q.3参照)に示すような因子が

    挙げられている。原因・悪化因子と考えられているこれらの因子が、どのような機序でア

    トピー性皮膚炎の炎症に関与するの か、あるいはどの程度に関与するのか、現在のところ十分に

    解明されているとはいえない。各因子の重要性は各患者によって異なるので、それぞれで十分に

    A

    A

    Q11

    Q11

    2歳未満

    2歳~12歳

    13歳以上成人まで

    ○食物

    ○発汗

    ○物理刺激( 破等)

    ○環境因子

    ○細菌・真菌  など

    ○環境因子

    ○発汗

    ○物理刺激( 破等)

    ○細菌・真菌

    ○接触抗原

    ○ストレス

    ○食物   な



    図9.アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子

    各患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者においてそれらを十分に確認してから除去対策

    を行う。(厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」より引用)

    診 断

    重症度の評価

    薬物療法

    原因・悪化因子

    検索と対策

    スキンケア

    (異常な皮膚機能の補正)

    基 本 治 療

    図8.アトピー性皮膚炎診療の概要(厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン 2005」より引用改変)





    -13-

    確認して無理のない適切な対策をとることが大切である。

    ①食物

    食物のアトピー性皮膚炎への関与の程度は報告によってさまざまであるが、特に乳幼児期にお

    いてその関与が強調されている。食物アレルゲンの検索には①詳細な問診、②アレルゲン検査、

    ③除去試験、④誘発試験などを行う。詳細な問診から何らかの食物アレルゲンが疑われるとRAST

    やプリックテストなどでその確認を 行う。食物アレルゲンに対する特異的IgE抗体の存在が直ち

    にその食物が悪化因子として関与していることを意味するものではない。確定には除去試験(最

    低2週間)、誘発試験(アナフィラキシーを伴う場合は行なわない)を行なう(図10)(日本アレ

    ルギー学会「アトピー性皮膚炎診

    療ガイドライン2006」より引用)。

    食物制限あるいは除去は発育に障害が生じないよう慎重でなければならない。食物除去療法が

    必要な場合は、他の治療法と組み合わせて専門医の指導のもとで無理なく行うことが大切である。

    ②汗

    汗はアトピー性皮膚炎の悪化因子と してよくしられている。患者の皮膚は汗に対して比較的特

    異的に反応して強い蕁麻疹反応 を生じる。その反応にはIgEの関与が明らかにされている。小学

    校におけるシャワー浴が症状を明らかに改善させることが知られている が(図11、Q.13参照)、

    その改善の一部は汗の除去による効果とも考えられる。

    ③物理(機械)的刺激(掻破も含む)

    皮膚の表面を覆う表皮角化細胞(ケラチノサイト)は引っ掻くなどの機械的刺激を受けると炎

    症に関わるいろいろな物質を放出し炎症を悪化させる (図4、Q.3参照)。したがって、痒みを誘発

    するような因子は避けなければなら ない。アトピー性皮膚炎では表5 にみられるような因子が痒

    問 診

    除去試験(最低2週間)

    誘発試験 (アナフィラキシーを伴う場合は行わない)

    血液検査(RAST)

    皮膚試験(プリックテスト)

    図10.食物アレルゲンの診断

    社団法人日本アレルギー学会

    アトピー性皮膚炎ガイドライン専門 部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドラ

    イン2006(監修:山本昇壯/河野陽一),協和企画,2006より引用





    -14-

    みを起こしやすいことが知られている。

    ④環境因子

    従来からダニはアレルギー疾患の代 表的な環境中の原因・悪化因子として知られているが、ア

    トピー性皮膚炎においても悪化因子 と考えられている。しかし、悪化因子としてダニを重視する

    もの、また逆に重視する証拠は得られないとするものなど見解はさまざまである。したがって、

    その除去対策は症状の経過をよく把 握しながら行うことが必要である。その他、花粉アレルゲン、

    ホルムアルデヒド、トルエンなども悪化因子となることが知られている。

    ⑤細菌・真菌

    皮膚の細菌叢とくに黄色ブドウ球菌はアトピー性皮膚炎の悪化因子としてよく知られている。

    黄色ブドウ球菌由来のスーパー抗原が種々の機序により炎症反応を起こすことが知られている。

    感染症状があれば抗菌療法を行うが 、アトピー性皮膚炎のスキンケアにおけるポビドンヨード液

    などの消毒薬の有効性に関しては評 価は一定しておらず、安易には使用しない。皮膚の清潔は入

    浴・シャワーなどにより保つ。

    カンジダ属やマラセチア属等の真菌感染もアトピー性皮膚炎の悪化因子となりうることが推測

    されており抗真菌薬の有効性も一部 で報告されているが、通常の治療としては選択しない。

    ⑥接触抗原

    接触皮膚炎(かぶれ)はアトピー性皮膚炎の症状を悪化させる。石鹸、シャンプー、リンス、

    その他日常の生活環境のなかで接触皮膚炎の原因となる物質は多く存在する。治療に用いる外用

    薬(ステロイド外用薬も含めて)も接触皮膚炎の原因となることがある。特に非ステロイド性抗

    炎症薬の外用による接触皮膚炎には注意が必要である。

    接触皮膚炎が疑われたときには、推測される原因物質をもちいて貼付試験(パッチテスト)を

    表5.アトピー性皮膚炎における痒みの誘起因子

    (%)

    ●温熱、発汗

    96

    ●衣類(ウール)

    91

    ●精神的ストレス

    81

    ●何らかの食物

    49

    ●飲酒

    44

    ●感冒

    36

    (Wahlgren CF: Acta Derm Venereol Suppl 165 1991より引用)





    -15-

    行って診 断を確定し、その原因物質を除去することが必要である。

    ⑦ストレス

    精神的ストレスがアトピー性皮膚炎 を悪化させることは、臨床上よく知られている。阪神大震

    災の被災地区においてアトピー性皮膚炎の悪化が高率にみられたことはその一例であろう。その

    機序については不明な点が多いが、本症の皮膚の炎症部位には知覚神経線維が増加しており、精

    神的ストレスによってそれら知覚神経線維末端から放出される神経ペプチドなどが炎症を増悪さ

    せると考えられている。

    いろいろなストレスを軽減する工夫が必要である。

    原因・悪化因子の同定やその除去対策は、専門医の指導のもとで行わなければならない。

    アトピー性皮膚炎の家族歴があるな ど発症のリスクが高い場合には、生後早くから皮膚のケア

    に特に注意した方がよいと思われる。

    アトピー性皮膚炎の皮膚の機能異常について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎の皮膚には水分保 持能の低下、痒みの閾値の低下、易感染性など機能に

    異常がみられる(Q.2 参照)。

    1)水分保持能(保湿能ともいう:角層に水分を保つ機能・能力)の低下

    角層の水分保持能が低下すると皮膚 は乾燥状態となる。角層の水分保持能には皮脂、角質細胞

    間脂質、天然保湿因子などが関与している。

    皮膚がカサカサした「乾燥肌」いわゆる「ドライスキン」は角層の水分保持能が低下し経表皮

    水分喪失が増して角層水分量の減少 した状態である。アトピー性皮膚炎のドライスキンは角質細

    胞間脂質特にセラミドの減少による と考えられているが、炎症による二次的な変化とする考えも

    ある。また最近、アトピー性皮膚炎の表皮の性状にはフィラグリンという物質が大きく関与して

    いることが明らかにされている。いずれにしても、ドライスキンはアトピー性皮膚炎の重要な症

    状の一つである(アトピー皮膚)。

    2)痒みの閾値の低下(弱い刺激でも痒みが生じるようになった状態)

    アトピー性皮膚炎では激しい痒みが 特徴の一つであるが、一般には痒みの強さは皮膚炎の強さ

    と相関するため、皮膚炎を抑制しなければ痒みも抑制できない。一方、アトピー性皮膚炎の皮膚

    では弱い刺激でも痒みが生じる状態 になっているが、ドライスキンは痒みが起こりやすくなる重

    A

    A

    Q12

    Q12





    -16-

    要な要因としてしられている。痒みが生じる機序の詳細については、いまだ不明な点が多い。

    3)易感染性(感染が起こりやすいこと)

    アトピー性皮膚炎の皮膚表面からは黄色ブドウ球菌が高頻度に検出されるが、一般に本症の皮

    膚では感染症が起こりやすい状態に なっている。その機序については十分には解明されてはいな

    いが、アトピー性皮膚炎では感染に対する免疫能の低下がみられるといわれている。例えば、

    Th1サイトカイン産生の低下によ る感染防御能の低下、Th2サイト カイン産生亢進による貪食能の

    抑制、皮膚表面で菌の増殖を抑制するsIgA(免疫グロブリンの一種)や抗菌ペプチド(ディフェ

    ンシン)の減少などが易感染性の一因と考えられている。病巣部の感染は症状を悪化させる重要

    な要因である。

    アトピー性皮膚炎におけるスキンケアの実際について教え

    て下さい。

    アトピー性皮膚炎の治療においては 皮膚の機能異常を改善すること(スキンケア)が重要

    である。その具体的な方法は皮膚の清潔と保湿である(表6)。

    A

    A

    Q13

    Q13

    表6.スキンケア(異常な皮膚機能の補正)の実際

    1.皮膚の清潔

    毎日の入浴、シャワー

    ●汗や汚れは速やかにおとす。しかし、強くこすらない。

    ●石鹸・シャンプーを使用するときは洗浄力の強いものは避ける。

    ●石鹸・シャンプーはのこらないように十分すすぐ。

    ●痒みを生じるほどの高い温度の湯は避ける。

    ●入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける。

    ●患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する。

    ●入浴後には、必要に応じて適切な外用薬を塗布する。など

    2.皮膚の保湿・保護

    保湿・保護を目的とする外用薬

    ●保湿・保護を目的とする外用薬は皮膚の乾燥防止に有用である。

    ●入浴・シャワー後には必要に応じて保湿・保護を目的とする外用薬を塗布する。

    ●患者ごとに使用感のよい保湿・保護を目的とする外用薬を選択する。

    ●軽微な皮膚炎は保湿・保護を目的とする外用薬のみで改善することがある。など

    3.その他

    ●室内を清潔にし、適温・適湿を保つ。

    ●新しい肌着は使用前に水洗いする。

    ●洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する。

    ●爪を短く切り、なるべく掻かないようにする。(手袋や包帯よる保護が有用なことがある)など

    厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」より引用





    -17-

    1)皮膚の清潔

    発汗や皮膚の汚れなどはアトピー性皮膚炎の痒みを誘 発する原因となる。アトピー性皮膚炎は

    痒みの激しい疾患であり、掻くことは最大の悪化因子である(Q.3 Q.11 参照)。汗や汚れは入

    浴・シャワーや濡れたタオルで拭くなどして速やかに落とし、皮膚を清潔にしておくことが大切

    である。事実、小学校でシャワー浴をした患児の症状は明らかに改善したことが報告されている

    (図11)。本症の悪化因子と考えられている皮膚に付着したいろいろな物質や細菌・真菌などを除

    去する意味でも入浴・シャワーは有益である。

    なお、ここでいう皮膚の清潔とは石鹸を使った入浴やシャワーによる清潔をいうのであって消

    毒による清潔を意味するものではな い。アトピー性皮膚炎のスキンケアにおける消毒薬の有効性

    についての評価は一定しておらず、安易には選択しない。また、タオルでゴシゴシ擦ることは避

    ける。

    2)皮膚の保湿・保護

    アトピー性皮膚炎のドライスキンの改善が本症の治療においては重要である(Q12 参照)。入

    浴やシャワーは皮膚に潤いを与える が、放置しておくと皮膚は速やかに乾燥する。したがって、

    皮膚に潤いがあるうちに皮膚の症状にあわせて適切な外用薬を塗布することが必要である。皮膚

    炎が存在する病巣部に使用する外用 薬は専門医の指示に従う。症状が軽い部位には保湿・保護剤

    を使用する。軽微な症状は保湿・保護剤のみで改善がみられることもある。











    3

    2

    (点)

    1

    0



    1



    2



    3



    4



    5



    6

    前2

    0

    n=6

    n=14

    24

    8

    中止後

    シャワー使用期間

    シャワー浴(-)

    シャワー浴(+)

    悪化

    改善

    図11.小学校におけるシャワー浴の効果

    5月より8週間ウィークデーの昼休みに3~5分間の微温水シャワー浴。

    (望月博之ら:日本小児学会雑誌 107: 1342 2003. より引用改変)





    -18-

    保湿・保護を目的とした外用剤には多くの製品がある。それらのうち医薬品として扱われてい

    る製品を表7 に示した。その他にも医薬部外品として多くの製品が開発されている。保湿・保護

    剤は原則として使用感のよいものを 選択してかまわないが、製品によっては接触皮膚炎を起こす

    可能性もあるので症状の変化を注意 深く観察しながら使用する。その使用法については専門医に

    相談することが望ましい。

    3)その他

    適温・適湿などの環境整備にも注意が必要である。また、新しい肌着は一度洗ってから使用す

    る、界面活性剤の少ない洗剤を使用する、髪が皮膚を刺激しないよう髪形を工夫する、掻くこと

    を避ける工夫や掻くことによる皮膚の傷害を避けるために爪を切ったり手袋や包帯を使用するな

    どの日常生活中の悪化要因を回避する工夫が必要である。

    アトピー性皮膚炎の薬物療法の基本について教えて下さい。

    原因・悪化因子の除去、スキンケアによってもなお症状の十分な改善がみられない場合に

    は薬物療法が必要となる。アトピー性皮膚炎の薬物療法の基本はステロド薬の外用と抗ヒ

    スタミン薬・抗アレルギー薬の内服である。また、タクロリムス外用薬の使用も普及してきてい

    る。

    1)外用療法

    ①ステロイド外用薬

    アトピー性皮膚炎の炎症症状の抑制には原則としてステロイド外用薬が用いられる。ステロイ

    ド外用薬はその臨床効果の強い順に Ⅰ(ストロンゲスト)、Ⅱ(ベリーストロング)、Ⅲ(ストロ

    ング)、Ⅳ(マイルド)およびⅤ(ウィーク)群の5段階に分類される。また剤型にも軟膏、クリ

    A

    A

    表7.保湿・保護を目的とする主な外用薬(医薬品)

    一般名

    代表的な製品名

    ワセリン

    白色ワセリン

    亜鉛華軟膏

    親水軟膏

    尿素含有製剤

    ウレパール軟膏、ウレパールローション、ケラチナミン軟膏

    パスタロン軟膏、パスタロン20軟膏、パスタロンソフトクリーム

    パスタロン20ソフトクリーム、パスタロン10ローション

    ヘパリン類似物質製剤

    ヒルドイド、ヒルドイドソフト、ヒルドイドローション

    厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」より引用

    Q14

    Q14





    -19-

    ーム、ローション、ゲル、テープなど多様な種類がある。症状の程度、塗布部位・面積、年齢、

    塗布方法、使用期間などを考慮して薬剤を選択する。その選択および使用法は医師の指示にした

    がう。指示された薬剤および塗布部位、塗布回数、使用量など塗布方法を自己判断で変更しては

    ならない。

    ステロイド外用薬によって症状が軽 快してくると、弱いステロイド外用薬やステロイドを含ま

    ない外用薬に変更する。それを適切に行うには定期的に医師の診察を受け皮膚症状を的確に評価

    することが必要である。そのためには指定された受診日には必ず受診することが必要である。原

    則として1~2週間をめどに症状および副作用出現の有無をチェックしたうえで治療法や治療薬の

    変更を決める。

    付1)ステロイド薬は主に外用薬として使用され、内服投与は原則として症状がきわめて激しく外

    用のみではコントロール不可能な最重症例に限られる。

    付2)ステロイド外用薬は専門医の指導のもとに適切に使用すれば、アトピー性皮膚炎の治療には

    きわめて有用な治療手段である。ステロイド外用薬の副作用(表8)に対する十分な理解は必

    要であるが、その使用に対する極端な恐怖心や使用拒否は適切な治療を著しく阻害する。

    表8.外用ステロイドによる局所の副作用

    a) ! 瘡様皮疹、毛嚢炎と酒 0 を含む

    b)眼瞼および口囲皮膚炎

    c)表皮真皮の萎縮、皮膚の脆弱性

    (老人のあるいは日光で障害された皮膚、間擦部、顔面で最もお

    こりやすい)

    d)創傷治癒遅延

    e)臀部肉芽腫

    f)紫斑

    g)毛細血管拡張と紅斑

    h)皮膚線条

    i)色素脱失

    j)多毛症

    k)皮膚糸状菌感染の隠蔽あるいは増悪

    l)二次感染あるいは存在する感染の増悪

    m)接触皮膚炎

    (1)保存剤あるいは基剤の他の成分によることがある

    (2)コルチコステロイド分子によることがある。この場合には類似構造をもったコルチコステロイ

    ド分子と交叉反応することがある。

    n)その他

    社団法人日本アレルギー学会

    アトピー性皮膚炎ガイドライン専門 部会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2006(監修:山本昇壯/

    河野陽一),協和企画,2006より引用





    -20-

    付3)ステロイド外用薬の吸収率は部位によって大きく異なり(表9)、同じ薬剤でも部位によっ

    て効果が異なるため、医師から指示された部位以外には使用しない。

    付4)ステロイド外用薬の口径5mmのチューブから押し出して成人の人差し指の指腹側末節部に

    乗る軟膏量を1FTU(finger‑tip unit)といい概ね0.5gといわれる。この量をおよそ両手掌くらい

    の面積に塗布する。

    ②タクロリムス軟膏(プロトピック®軟膏)

    アトピー性皮膚炎の治療薬として免疫抑制薬タクロリムスの外用薬が普及してきている。2歳以

    上15歳以下には0.03%軟膏、16歳以上には0.1%軟膏が適応になっている。タクロリムスはアトピ

    ー性皮膚炎の炎症が起きることに中心的な役割を担うTリンパ球の機能を抑制するといわれてい

    る。タクロリムス軟膏は特に顔面・頸部の皮疹に対して有効性が高いといわれているが、体幹・

    四肢の皮疹に対してはⅢ群のステロイド外用薬と同等程度の有効性といわれている。

    タクロリムス軟膏は、ステロイド外用薬等の既存療法では効果が不十分なとき、または副作用

    によりそれらの既存療法を行うこと ができないなど、タクロリムスによる治療がより適切と考え

    られる場合などに使用する。

    本剤は塗布部位に強い刺激感を生じることがある。その他皮膚感染症、 ! 瘡、皮膚以外の感染

    症、腎障害、発癌リスクなどが副作用として挙げられているが、本剤は比較的新しい薬剤で長期

    間使用した場合の副作用に関しては十分には明らかでない面もある。

    使用法や副作用などについて医師から十分に説明を受け理解したうえで使用する。

    ③非ステロイド性抗炎症外用薬

    いわゆる非ステロイド性抗炎症外用 薬(NSAIDs)が使用されることがある。これには数種類

    の製品があるが、接触皮膚炎を起こしやすく使用に際しては注意が必要である。

    2)内服療法

    抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬の内服

    表9.ステロイド外用薬の部位別吸収率

    前腕(内側)1.0

    手掌

    0.83

    前腕(外側)1.1

    腋窩

    3.6

    頭皮

    3.5

    背中

    1.7



    6.0

    陰嚢

    42.0

    頬部

    13.0

    足首

    0.42

    頸部

    6.0

    足底

    0.14

    (Feldman RJ et al:J Invest Dermatol 48 1967より引用改変)





    -21-

    外用薬に加えて、抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬がその抗炎症作用、止痒効果を期待して併

    用される。ただし、アトピー性皮膚炎の症状をこれらの薬物のみでコントロールすることは不可

    能で、補助的薬物療法として使用される。医師の指示に従い薬剤の作用、副作用について十分に

    理解したうえで使用することが大切 である。特に、眠気を誘起しやすい抗ヒスタミン薬・抗アレ

    ルギー薬を服用中は、自動車の運転、危険な作業などは避ける。

    アトピー性皮膚炎の基本治療以外の治療について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎の多くは通常の基本治療によってコントロールできる。また、場合によ

    っては次のような付加的治療が併用 されることがある。その対象は慎重に選択し、有効性

    を常に評価しながら用いなければな らない。付加的治療が第一選択となることはない。

    1)紫外線療法

    紫外線はアトピー性皮膚炎の皮膚に浸潤しているT細胞やランゲルハンス細胞を減少させそれ

    らの機能を抑制して炎症を抑えると いわれている。紫外線療法には数種の方法があるが、その選

    択は専門医が行う。紫外線療法は専門医の監視下で行う。

    2)漢方薬

    十味敗毒湯、消風散、柴胡清肝

    湯、補中益気湯などの有用性が報告されているが、医師の指示

    に従って有効性および副作用を確認しながら使用する。

    3)n‑3系多価不飽和脂肪酸

    n‑3系多価不飽和脂肪酸を摂取すると白血球からの炎症性化学伝達物質やサイトカインなどの産

    生が抑制されるといわれている。医師の指示に従って用いる。

    アトピー性皮膚炎の経過中の注意事項について教えて下さい。

    アトピー性皮膚炎は経過中に種々の 合併症を伴ったり、また基本治療によっても十分にコ

    ントロールできない場合にはさらに適切な対処が必要である。

    1)アトピー性皮膚炎は、伝染性膿痂疹、カポジ水痘様発疹症、伝染性軟属腫などの感染症を合併

    しやすいので、症状が"おかしい"と思ったら早く専門医を受診することが必要である。

    2)眼病変、特に白内障や網膜剥離などの合併に注意が必要である。眼を強くこするあるいは叩く

    などの機械的刺激はこれらの眼病変 を起こす要因となる。顔面に症状がある場合には定期的に

    A

    A

    A

    A

    Q15

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    Q16

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    眼科を受診することが望ましい。

    3)治療していても症状が改善せずむしろ悪化するような場合には、使用している外用薬による接

    触皮膚炎(かぶれ)を生じていることがあるので注意が必要である。

    4)本ガイドブックに示した治療は、厚生労働科学研究による「アトピー性皮膚炎治療ガイドライ

    ン2005」および日本アレルギー学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2006」に基づ

    いて作成されたものであり、基本的な治療を示したものである。場合によってはその他の治療

    を考慮することが必要なことがある。

    5)基本治療に従って1ヶ月程度治療しても皮疹の改善がみられない場合は、より専門的な治療が

    必要なことがある。また、アトピー性皮膚炎の治療の多くは外来で行われるが、外来治療でコ

    ントロールが困難な場合は入院治療がきわめて有効である。





    コメディカルのための

    アトピー性皮膚炎対処ガイドブック

    平成19年3月/初版発行

    発 行 厚生労働科学研究

    印 刷 株式会社

    協和企画
http://www.pdffind.com/pdf/hikag/
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