第99 回近畿生理学談話会

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1.組織remodelingにおけるクラス 4・セマフォリンの
役割
湯川和典1,白  涛2,田中哲二2,荊 炳群2,上山敬
司3,熊ノ郷 淳4,菊谷 仁4,前田正信1(和歌山県立医
科大学・医・1 生理学,2 産科婦人科学,3 解剖学,4 大阪大
学微生物病研究所)
マウスの膣開口現象は生後に起こる組織remodelingの
ひとつである.クラス4・セマフォリンのSema4Dを欠損
するノックアウト・マウスには膣閉鎖が発生する.膣閉鎖
発生のメカニズムを明らかにするためSema4Dと受容体
の発現ならびにアポトーシスの解析
を行った.
Sema4DmRNAと蛋白が 5 週齢雌マウスの膣上皮に検出さ
れPlexin‑B1 受容体の発現も膣上皮内に検出された.ウエ
スタン・ブロット解析にて膣開口と一致してPlexin‑B1 受
容体がシグナル増強型に再構成することも判明した.
Wild‑typeマウス膣上皮上層で多数の
TUNEL陽性細胞を
認めたがSema4D ノックアウト・マウス膣上皮ではアポ
トーシス細胞はほとんど検出されな かった.Sema4Dのア
ポトーシス誘導作用を証明するためSema4Dノックアウ
ト・マウス由来の培養膣上皮細胞にレコンビナント
Sema4D を添加するとTUNEL 陽性細胞と活性型caspase3
陽性細胞が有意に増加することが判明した.従って
Sema4D は5週齢マウスの膣上皮にアポトーシスを誘導し
て膣開口に関与することが明らかになった.
2.ラット心筋細胞への蛋白質直接導入
畑田充俊12,幸田 剣1,山崎寿也1,崔  鶴1,荊 炳
群1 ,湯川和典1,岡村吉隆2,前田正信1(1 和歌山県立医科
大学第 2生理学教室,2和歌山県立医科大学第 1 外科)
【目的】現在,心筋再生医療として種々の遺伝子治療が
行われつつある.しかし,機能蛋白質を使った治療は行わ
れておらず,in vivoで心筋細胞に蛋白質を直接導入した
報告もない.そこで我々は,Hemagglutinating virus of
Japan envelope (HVJ‑Eを使用し,β‑galactosidase (β‑gal
がin vivoで心筋細胞に直接導入可能か検討した.【方法】
Wistarラットの心尖部~左心室前壁にガラスマイクロピ
ペットを使用し,β‑gal + HVJ‑E(実験群)またはβ‑galの
み(対照群)を注入した.投与後,3 又は 6 時間後に心臓
を取り出し,X‑gal染色を行った.β‑gal活性をX‑gal陽性
細胞の面積として 2群を比較した.【結果】投与後 3,6 時
間でともに実験群のほうが有意に多かった[コントロール
群,実験群;6.3±0.7,68±5.3 μm2,p<0.01(3 時
間);56±20,822±151 μm2,p<0.01(6 時間)].
【結論】in vivoで心筋細胞に機能蛋白質直接導入は可能と
考えられ,これを利用した新しい蛋白質治療を開発できる
可能性があると我々は考えている.
3.マクロファージの特異的除去による腫瘍増殖阻害
高橋 猛,吉田龍太郎,山路純子,森 禎章,乾 崇樹,
窪田隆裕(大阪医科大学生理学教室)
【目的】近年,腫瘍周辺の低酸素と関連して,マクロフ
ァージと腫瘍増殖との関連が示唆されている.すなわち,
腫瘍増殖期に腫瘍からのHypoxia inducible factorなどに
よって誘 導されたマクロファージが,腫瘍の分化,浸潤,
転移,血管新生を促進する.今回,我々はマクロファージ
を特異的に除去するdichloromethylene diphosphonate
(DMDP‑Lipsome(DMDPリポゾーム)を腫瘍周囲に皮内
注射し,腫瘍増殖抑制効果について検討した.
第99 回近畿生理学談話会
日  時:2006 年9月 2 日(土)
場  所:大阪歯科大学楠葉学舎
当番幹事:大阪歯科大学生理学講座 西川泰央
参加人数:84名
演題数:35題
2006 年9月2日,大阪歯科大学楠葉学舎の第 1 および第 2 大講義室に 84 名の参加者を迎え,第
99 回近畿生理学談話会が開催された.午前中は 1 会場で,午後からは 2 会場に分かれて合計 35
演題の口演発表が行われ,活発な質疑応答がなされた(討論を含め 1 演題の持ち時間は 15 分).
午後の部の開始に先立ってミーティ ングが開かれ,評議員会での議論や主な話題が参加者全員に
紹介された.運営は若手中心の原則に従い,座長も大半が若手研究者・大学院生であった.次回
2007 年は三重大学が当番校になり,中部地方会と合同開催される予定である.
学会抄録
414
● 日生誌 Vol. 68,No. 11
2006


【方法】B16 メラノーマ腫瘍(5×105 cell/マウス)を皮
内注射し,同時に,その周辺に
DMDPリポゾーム,また
はPBS リポゾーム(対照)を,皮内注射した.リポゾー
ム濃度は原液の 3倍,5倍希釈を,3 日毎に 6 回あるいは
12 回投与した.B16メラノーマをあらかじめ皮内注射し,
腫瘍径が約 3mmになった時点でも,同様の実験を試みた.
【結果】全ての投与群において,DMDPリポゾームの
腫瘍増殖抑制効果が見られた.特に,DMDP濃度 3 倍希
釈,12 回投与群においてB16 メラノーマ腫瘍を完全に拒
絶することができた.
【考察】現在,DMDPリポゾーム投与後の組織と腫瘍
周囲で産生されるサイトカインの変化を検討中である.
4.血管条辺縁細胞のL型Ca2+チャネルは蝸牛内直流電
位の維持に関与する
乾 崇樹3,森 禎章1 ,二村吉継3,渡辺正仁2,山路純
子1,吉田龍太郎1,竹中 洋3,窪田隆裕1(1 大阪医大・生
理,2同・解剖,3同・耳鼻咽喉科)
目的:蝸牛内リンパ腔は+80 mV程度の蝸牛内直流電位
(EP)を有している.本研究ではEPの維持に対するCa2+
の役割を,電気生理学的手法と免疫組織化学的手法を用い
て検討した.
方法:1)EP測定用電極は,モルモット蝸牛第 2 回転よ
り経血管条的に内リンパ腔に刺入した.また薬剤は,内リ
ンパ腔,外リンパ腔および椎骨動脈より投与した.2)内
耳血管条のL型 Ca2+チャネルを,蛍光抗体法により検出
した.
結果:1)ニフェジピンを内リンパ腔(1 μg/ml)や椎
骨動脈(30μg/ml)に投与すると,無呼吸負荷によるEP
の低下が有意に抑制された.しかし,ニフェジピンを外リ
ンパ腔(10μg/ml)に投与しても,無呼吸負荷によるEP
の低下は抑制されなかった.2)蛍光抗体法では,辺縁細
胞の側基底膜と管腔膜に
L型 Ca2+チャネルの強陽性反応
が観察された.
結論:無呼吸負荷時には辺縁細胞のL型Ca2+チャネル
が開孔する事で辺縁細胞内の
Ca2+濃度が上昇し,EPが低
下するものと考えられた.したがって,EPの維持には辺
縁細胞内の Ca2+濃度が重要である.
5.嚥下に関与するラット軟口蓋体性感覚の大脳皮質で
の情報処理様式
奥田義彦12,佐藤 元2,戸田孝史2,古郷幹彦1,姜 英
男2(1 大阪大学院・歯・顎口腔病因病態制御,2 大阪大学
院・歯・高次脳口腔機能)
【目的】軟口蓋感覚情報は食塊の流動性,大きさ,均一
性を認知する上で重要な役割を担うと考えられる.本研究
は軟口蓋の感覚情報処理機構を明らかにするため,大脳皮
質誘発電位の解析を行った.【方法】体重 310~440gの
Wistar系ラットを用い,全身麻酔下にて下顎を除去し,
軟口蓋あるいは小口蓋神経に電気刺激を与え,銀ボール電
極により大脳皮質誘 発電位を記録した.次に,誘発電位が
記録された大脳皮質部位にタングステン電極を刺入し,皮
質内微小電気刺激(ICMS)を行った.【結果と考察】体
性感覚野と運動野の二つの異なる領 域で,個別に誘発電位
が認められた.しかし,運動野における誘発電位の方が,
潜時が長く,振幅は大きかった.さらに,軟口蓋前方及び
後方の刺激で,それぞれ大脳皮質内側及び外側に誘発電位
が生じた.潜時は後方刺激の方が長かった.また,この部
位のICMS により口蓋筋の活動が認められた.従って,軟
口蓋前方から後方へ食塊が移動する速度を厳密に検出する
のに適した神経回路を構成していると考えられた.また,
軟口蓋自体の運動感覚情報を統合して口蓋筋の運動調節を
行い,嚥下運動に関与することが推察された.
6.ラット三叉神経運動核咬筋領域内に存在するα及び
γ運動ニューロンの電気生理学的分類
太田雅裕12,齋藤 充1,佐藤 元1,豊田博紀1,姜 英
男1(1 大阪大院・歯・高次脳口腔機能学,2 大阪大院・
歯・顎口腔機能再建学)
咬筋では,筋紡錘 1個に含まれる錘内筋線維数は他の身
体部位の筋よりも2~10 倍多いことから,γ運動系の寄与
が極めて重要であることが示唆される.三叉神経運動核
(TMN)咬筋領域には,α及びγ運動ニューロンや介在ニ
ューロンが存在している.そこで,TMNを含む脳幹スラ
イス標本を作成し,TMN咬筋領域のニューロンからホー
ルセル電流固定記録を行ない,電気生理学的分類を試みた.
その結果,[1]低閾値型Ca2+スパイクが顕著なもの,[2]
4‑AP感受性をしめすA型K+電流が顕著で,弱い低閾値型
Ca2+スパイクを示し,かつ,Ca2+
依存性Cl-電流による脱
分極性スパイク後電位がみられるも の,[3]持続性Na+電
流を示し,かつ,Ca2+依存性陽イオン電流による緩徐な脱
分極性後電位を示し,自発性の律動性発火が見られるもの,
の3 つのサブタイプに分類された.これまでの研究結果か
らそれぞれ,[1]はGABA作動性介在ニューロン,[2]
はα運動ニューロンに相当することが明らかとなっている
ことから,[3]がγ運動ニューロンである可能性が示唆さ
れた.また形態学的解析も行なった.
7.味覚嫌悪学習の想起過程におけるラット腹側淡蒼球
の関与
415
第99 回近畿生理学談話会 ●


乾  賢,志村 剛,山本 隆(大阪大学院 人間科学
行動生理学)
動物が味溶液を摂取後に腹痛などを経験すると,その味
に対する嫌悪学習を獲得する.これを,味を条件刺激
(conditioned stimulus,CS),内臓不快感を無条件刺激と
した味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion,CTA)と
いう.CTAの成立によってCSの味覚嗜好性に変化が起こ
ると考えられる.近年,腹側淡蒼球(ventral pallidum,
VP)の味覚嗜好性への関与が報告されている.そこで,
VPのCTAへ の関与を明らかにするために,VPへの
GABA
A
受容体阻害薬ビククリンの注入が
CTAの想起に
及ぼす影響を調べた.実験 1 では 1 ビン法を用いてラット
にサッカリンあるいはキニーネに対するCTAを獲得さ
せ,想起テストの直前にビククリンを注入した.その結果,
ビククリンによってサッカリンの摂取量が増加した.実験
2では口腔内カニューレ法を用いて実験 1 と同様にビクク
リンの効果を調べた.ビククリンによって嫌悪反応が消失
し,摂取反応が多くみられようになった.これらの結果か
ら,VPでのGABA放出量がCTAの想起に関与している
可能性が示唆された.そこで実験
3においてマイクロダイ
アリシス法を用いてCTAの想起がVPでのGABA遊離に
及ぼす影響について検討中である.
8.心理ストレスによるHPA活動上昇度の男女差
○得 井規安,内橋賢二,西川泰央(大歯大・生理)
ヒトの主要なストレス反応
系には視床下部│下垂体前
葉│副腎皮質(HPA)系と交感神経―副腎髄質(SAM)
系の 2つがあることが知られている.本研究は心理ストレ
ス時のHPA系およびSAM系の活動上昇度を男女間で比
較した.
成人被験者男女(18‑26 歳)について,各個人の対スト
レス感受性を自記回答式特性不安度 テスト(Spielberger's
STAI)で評価し,1.男性高不安度群,2.女性高不安度
群,3.男性低不安度群および 4.女性低不安度群の 4 群に
分けた.ストレッサとして角膜移植手術のビデオを見せ
(15分),その直後の全唾液中のコルチゾルとβ‑エンドル
フィンをHPA 系,α‑アミラーゼをSAM系の指標として,
それぞれELISAで測定した.
安静時の唾液中ストレス指標濃度は 4 群で有意差は認め
られなかった.ストレッサ負荷後,唾液指標はすべて有意
に上昇したが,高不安度群のコルチゾルだけが,女性は男
性より有意に低い上昇度であり,アミラーゼおよびβ‑エン
ドルフィンでは男女差は認められなかった.この実験結果
は,高不安度群ではストレスビデオを見ている間,女性は
男性よりもコルチゾルを低濃度しか分泌せず,低不安度群
ではこの男女差は認められないことを示している.すなわ
ち,急激な心理ストレッサを負荷されたときには,高不安
度の女性は男性に比べてHPA系を充分に活動させること
ができないと考えられる.
9.移植治療のための心筋・骨格筋筋芽細胞活動の光学
計測
城間晋作12 ,齋藤充弘3,嶽北和宏3,八木哲也2,澤 芳
樹3,(121 世紀COEプログラム,2 大阪大学大学院工学研
究科,3 大阪大学大学院医学系研究科)
近年,心不全の治療法として再生型治療の有用性が注目
されている.我々は培養筋芽細胞を不全心へ移植すること
によって心機能を回復させることを目指しているが,この
目的のためには移植に適した培養ステージあるいは培養細
胞の状態を決定することが重要である.そこで今回,培養
骨格筋筋芽細胞およびそのコントロールとして培養心筋細
胞の生理学的状態を,カルシウム蛍光色素Fluo‑4 を用い
て観察した.心筋細胞は新生仔ラットの左心室から,筋芽
細胞は 2週令ラットの下肢からそれぞれ採取し 37℃で培
養した.培養心筋細胞においては,培養 2‑3 日において周
期約 1.4秒,ほぼ一定振幅の規則的な細胞内カルシウム濃
度の振動が観 察された.この振動は,還流培養液の温度を
下げると消失した.これに対し筋芽細胞は,培養 2‑3 日後
において自発的なカルシウム濃度変動が観測されたが,こ
の変動は周期および振幅において不規則であった.またこ
の変動は,温度を下げても観測されることがあった.筋芽
細胞を6‑7 日間培養をおこなうと筋管形成がみられたが,
この筋管形成した細胞においても,培養 2‑3 日の細胞と同
様の不規則な自発カルシウム濃度変動が観測された.
10.視覚野信号伝播における抑制系の影響
田中哲史,武野祐介,小山内実,八木哲也(大阪大学大
学院工学研究科)
近年,全盲障害者の視覚野に電極を埋植し,マイクロ電
気刺激することによって視覚機能を代行させようとする研
究がなされているが,この電気刺激が視覚野神経回路にど
のような信号を誘 発するかは明らかではない.我々は,マ
ウスの視覚野スライスに対して,Ca2+蛍光指示薬を用いた
Ca2+イメージングを行うことによって,視覚野に与えた電
気刺激によって誘 発される信号の伝播様式を調べた.その
結果,視覚野の信号入力部である
4層に電流刺激を行った
場合,4 層から2/3層方向へと層に対して垂直方向にCa2+
濃度上昇が起こる領域が拡がることが観測された.これに
対し水平方向の Ca2+濃度上昇の拡がりは制限されていた.
このことは,4 層への電気刺激により信号は主に垂直方向
416
● 日生誌 Vol. 68,No. 11
2006


に伝播することを示している.抑制性の神経伝達物質
GABA
A
受容体阻害剤bicucullineを投与し,抑制性のシナ
プス伝達を阻害すると,bicucullineの濃度依存的に個々の
細胞の Ca2+濃度上昇の振幅が増大し,かつ垂直方向に限
局されていた Ca2+濃度上昇領域が,水平・垂直方向共に
拡大した.これらの結果は視覚野における信号伝播は抑制
性シナプス伝達の作用により制限されていることを示唆し
ている.
11.サル頭頂葉VIP野における自己と他者の身体像のマ
ッチング機能
○石田裕昭,稲瀬正彦,村田 哲(近畿大学医学部 第
一生理学講座)
他者の動作の認識には,自己身体の表象と他者の身体像
を脳内でマッチングすることが必要であるとわれわれは考
えている.サル頭頂間溝内部(VIP周辺)のニューロンは,
視覚と体性感覚情報を統合し,自己身体の認識に関与して
いる.そこで本研究は,VIP野周辺から他者身体の認識に
関わるニューロンを探索した.
まず,触覚と視覚刺激に反応
するニューロンを探索し,
受容野の広がりを調べた.次に,サルの前に実験者が対面
し,触覚受容野があるサルの身体部位と同じ部位について,
実験者自身が触るか,第三者に触られているところをサル
に観察させ,その時の単一ニューロンの活動を記録した.
視覚受容野がサルの身体付近にあるニューロンのうちい
くつかは,サルの触覚受容野に対応する実験者の身体部位
への刺激に反応 した.たとえば,サルの触覚受容野が右頬
にある場合,実験者が右頬を触るか,第三者が実験者の右
頬付近に視覚刺激を提示したときに反応し,左頬では反応
しなかった.さらに,視覚受容野については,サルとヒト
の顔面付近でのみ発火したが,両者間の空間上に視覚刺激
を提示したときは反応しなかった.本研究結果は,予備的
ではあるがVIP野周辺のニューロンが自己身体像に加え
て,他者身体像にも反応することを示唆する.
12.サルV4 野皮質局所における色選択性細胞の空間配

○小竹康代1,森本広志1,田村 弘12,藤田一郎12(1 大
阪大学大学院生命機能研究科・認知
脳科学研究室,
2
CREST.JST / 科学技術振興機構)
サルV4 野では,同じ色に対して反応する細胞が皮質局
所に集合し,最適色に基づいたクラスターを形成するとい
う報告がある一方,そのような構造はないとする報告もあ
る.そこで本研究では,麻酔不動化したサル( Macaca
fuscata )V4 野において,隣接細胞の色刺激セットに対す
る応答の類似度をスパイク発火頻度の相関係数で評価し,
クラスターの有無の再検討を行った.全隣接細胞ペアの相
関係数の分布は正に偏っていたことから,隣接細胞ペアの
色選好性は類似する傾向にあった.しかし,全隣接細胞の
うち有意な相関を持たないペアは
7.8%であり,互いに異
なる色選好性を持っていた.各計測点における最適色のば
らつきを調べると,ばらつきの大きい計測点と小さい計測
点の 2群に分かれることが明らかになった.以上の結果は,
V4 野の皮質局所では,色クラスターを形成している場所
と,異なる色選好性を有する細胞が混在する場所が存在し
ていることを示唆する.
13.マウスガードによる頸
部筋緊張が動体視力に与え
る影響
長谷川達央1 ,今井裕一郎2,石田純一2,桐田忠昭2,石
指宏通3 ,山下勝幸1,和田佳郎1(1 奈良医大・第 1 生理,
2
奈良医大・口腔外科,3 奈良医大・保健体育)
運動物体の形を識別する能力を動体視力と呼び,眼球運
動が重要な要素であることが知られている.例えば頭部回
転しながら運動物体を追跡する場合,追跡性眼球運動,前
庭動眼反射(VOR)とともに頸部固有受容器を介した頸
性動眼反射(COR)が関与する.今回,CORと動体視力
の関係を検討する目的で,マウスガード(MG)により頸
部筋緊張を変化させた条件下で,動体視力,眼球運動,頭
部運動,頸部筋電図を測定した.実験は健常成人を対象に,
右方向に頭部を能動的に回転させながら右方向に直線運動
(90deg/s)する視標を読み取らせた.その結果,MGを使
用することにより動体視力が上昇するグループと,低下す
るグループに分かれ,両群とも動体視力の変化と咬合力の
間に正の相関が見られた(動体視力上昇群r=0.73,動体
視力低下群r=0.85).いずれの被験者群も右方向の頭部
運動中に左方向の眼球運動が認められたが,動体視力上昇
群ではMGの使用によりこの眼球運動が小さくなる傾向が
見られた.以上の結果は,MG
がVORを抑制することに
よって動体視力を向上させる可能性をあらわしている.現
在,MGとCOR,VORの関係についてさらに実験を進め
ており,本談話会ではその結果を含めて報告する.
14.サルの体性感覚誘
発電位(SEP)とSEPに対する
長期間運動の影響
中尾和子,玄番央恵,松崎竜一,雨夜勇作(関西医大・
第二生理)
2 頭のサルを用い,麻酔下で正中神経を電気刺激して,
両側大脳半球の種々の皮質領野の表面と 2.0‑3.0mm深部に
慢性的に埋め込んだ対電極から
SEPの同時記録を試みた
417
第99 回近畿生理学談話会 ●


ところ,電気刺激と対側の大脳半球において,短潜時(<20
ms)のSEPが潜時の短い方から体性感覚野,運動野,5
野,7野,運動前野および前頭前野の順に記録された.一
方,刺激と同側の体性感覚野,運動野,5 野,7 野,運動
前野および前頭前野においても
SEPは記録されたが,対
側の場合より潜時が 1‑5ms長かった.さらにSEPに対す
る長期間運動の影響を調べるため,2 頭の中の 1 頭のサル
を訓練して,両下肢を用いたペダル回転運動を約 7 ヶ月間
行わせた.その運動後にSEPの記録を試みたが,刺激と
対側の 7野において,運動前に既に出現していた部位だけ
でなく出現していなかった部位からもSEPの記録される
ことが分かった.以上より,比較的短潜時のSEPが体性
感覚野や運動野だけでなく,頭頂連合野,運動前野および
前頭前野からも出現することがわかった.さらに長期間の
運動により体性感覚情報の入力皮質部位が 7 野において拡
大することがわかった.さらに
7野のSEPが体性感覚野を
介さず,視床からの直接入力によることも示唆された.
15.サル視床―前頭前野投射について
松崎竜一,久宝真一,中尾和子,雨夜勇作,玄番央恵
(関西医科大学,生理学第二講座)
サルが手の運動を抑止する際に,前頭前野の主溝背側壁
で,皮質表面で陰性,深部で陽性の大脳質フィールド電位
(Nogo電位)の出現することが知られている.このような
表面―陰性,深部―陽性の電位は浅層性視床大脳皮質投射
により惹起される.本研究では,Nogo電位の由来となる
視床部位を同定するため,麻酔下で視床を電気刺激し,前
頭前野(8,46野)に誘発される大脳皮質フィールド電位
を対電極 (表面電極と深部電極)により記録し,検討した.
その結果,前頭前野に浅層性視床大脳皮質応答を引き起こ
す視床核は VA,VLo,VLc,X,VPLo,MD核であり,
この中,VA,MD核が主として主溝背側壁に浅層性視床
大脳皮質応 答を惹起した.一方,トレーサー(Diamidino
Yellow)を主溝背側壁へ注入して視床における逆行性標
識細胞を調べたところ,標識細胞は主としてVA,MD核
に認められた.更に帯状回(23,24 野)を電気刺激する
と,視床のVA,MD核刺激の場合とほぼ同じ前頭前野領
域に表面―陰性,深部―陽性の電位が誘発された.他方,
帯状回から VA,MD核への投射が形態学的に知られてい
る.以上から,Nogo電位が帯状回―視床(VA,MD核)
―前頭前野投射により惹起されることが示唆される.
16.3f5f 縞の動きで生じるサルの追従眼球運動
松浦清人,三浦健一郎,瀧 正勝,田端宏充,稲場直子,
河野憲二,Frederick A. Miles(京都大学大学院医学研究
科 認知行動脳科学)
追従眼球運動(OFR)は広い視野全体が突然動くこと
によって誘 発される短潜時の眼球運動である.OFR誘発
時に視覚刺激から動きの情報が抽出されるメカニズムを理
解するため,CRT上に正弦波縞を提示し,視覚刺激とし
て用い,サルの眼球運動を計測した.正弦波の基本周波数
を1fとして 3倍周波数の 3f縞を基本周期の 1/4 ずつ移動さ
せるとOFRは移動方向とは逆方向に起こり,5 倍周波数
の5f縞を同じ距離ずつ移動させるとOFRは移動方向と同
方向に起こる.そこで,3f
縞と 5f縞を足し合わせた縞
(3f5f縞)を同じ距離ずつ移動させたときに生じるOFRを
調べ,2 つの縞がどのように影響をおよぼしあっているか
調べた.提示する 3f5f縞を構成する要素のうち,5f縞のコ
ントラストは8 %に固定し,3f縞のコントラストを 5f縞の
コントラストの1/4 倍から 4 倍まで変えた.計測の結果,
3f5f縞で生じるOFRは,3f縞のコントラストが 5f縞のコ
ントラストより大きいときは,3f縞の影響を大きく受け,
5f縞のコントラストが 3f縞のコントラストより大きいと
きは,5f縞の影響を大きく受けることが分かった(Winner‑
Take‑All).
17.単眼運動検出メカニズムと両眼運動検出メカニズ
ムの知覚および眼球運動への影響
林 隆介,三浦健一郎,田端宏充,河野憲二(京都大学
大学院 医学研究科 認知行動脳科学)
われわれは左右眼それぞれに入力される運動方向と両眼
観察下で知覚される運動方向が反転するという全く新しい
視覚刺激を開発した.この刺激は空間と時間の両方で位相
が直行する二つの定常波の重ね合わせが進行波になるとい
う三角関数の加法定理にもとづき,任意の時空間パターン
のヒルベルト変換の加減算によって合成されたものであ
る.本刺激を用いて単眼運動強度と両眼運動強度をパラメ
トリックに調整し,単眼運動検出器と両眼運動検出器の知
覚および運動への寄与を分離して解析することができる.
心理物理実験によりこの刺激の運動知覚が刺激提示時間に
依存して変化することを見出した.提示時間が 100ms前
後と比較的短い条件下では単眼運動の知覚が強調され,提
示時間が 200msより長いと両眼運動の知覚が強調される
傾向が確認された.また,同刺激を提示したときの眼球運
動を計測し,刺激開始時点から潜時 100~150msに発現す
る初期眼球運動成分と潜時
150ms以降に発現する後期眼
球運動成分が,それぞれ単眼/両眼運動の強度変化に依存
してどのように変調されるかを,運動知覚の変化と対応づ
けて議論する.
418
● 日生誌 Vol. 68,No. 11
2006


18.先行する視覚刺激への順応
がヒトの追従眼球運動
に及ぼす影響
河野憲二,三浦健一郎,田端宏充(京都大学大学院医学
研究科認知行動脳科学),瀧 正勝(京都府立医科大学耳
鼻咽喉科)
一方向へ動く視覚刺激を見続けると,運動の知覚に影響
を及ぼす(運動順応:motion adaptation).この運動順応
には大脳MT(middle temporal),MST(medial superior
temporal)野が関係していると考えられている.この運
動順応を定量的に計測するため,先行する視覚刺激が追従
眼球運動に及ぼす影響について調べた.追従眼球運動は広
い視野の視覚刺激の動きによって生じる眼球運動で,その
制御には MT,MST野が関係していると考えられている.
被験者の眼球運動はDouble Purkinje Image法により計測
した.
①CRT上に静止した視標(0.5 度)とランダムドット像
(32度×25.6度)を提示し,②被験者が視標を注視してい
る間にランダムドット像を
20度/秒で右または左へ 2 秒間
動かした(順応刺激).③次に,ランダムドット像を
0.2秒
間消し,④静止したランダムドット像を 0.1 秒間提示した
後,⑤視標を消し,ランダムドット像を右または左に 20
度/秒で0.2 秒間動かした(テスト刺激).順応をおこした
場合,静止したランダムドット像を 2 秒間提示した場合と
比べて,追従眼球運動に速度の低下が見られた.
19.ニワトリ音圧差計算神経核(LLDp核)の膜特性・
シナプス特性について
佐藤達雄,福井 巌,大森治紀(京大・神経生物)
音源定位には音情報の両耳間時間差 (ITD),両耳間音
圧差(ILD)が重要な手がかりである.鳥類では音情報は
時間経路と音圧経路が平行処理され,上位核で左右の音情
報が比較される.ITD計算過程は様々な鳥類でin vivo,
in vitro とも調べられてきたが,ILD計算過程については
面フクロウを用いたin vivo研究(外側毛帯背側核後部:
LLDp)があるのみで,in v
itro知見はない.我々はこれ
までin vivo実験系を用いて,ニワトリにおいてもLLDp
核が音圧差計算核であることを示した.
次に細胞生理学的にILD計算過程を解析するため,ニ
ワトリ脳幹スライスにpatch clamp法を用いた.下丘から
の逆行性蛍光標識にてLLDp 内の投射細胞(ILD計算細胞
と推定)を同定して実験を行った.投射細胞は注入電流量
に応じたtonic な発火特性を示し,複数種のKチャネルの
存在が示唆された.また,対側音情報・同側音情報を伝え
るそれぞれの線維束を刺激すると,AMPA・NMDA受容
体を介するEPSC,GABA
A
受容体を介するIPSCが誘発さ
れた.
今後,これらの基本的膜興奮性,入力特異性の所見に基
づき,対側興奮・同側抑制のシナプス入力がいかに音圧差
計算を形成しうるかを明らかにしたい.
20.In vivo patch‑clamp 法による下丘神経回路の解析
小野宗範,大森治紀(京都大学医学部神経生物学教室)
下丘は,中脳に位置し,上位下位聴覚伝導路からの入力
を受け,音情報の統合的処理を行う神経核である.下丘の
神経回路網の解明は中枢神経における聴覚情報処理の理解
に不可欠であるが,回路網の複雑さから,解析が困難を極
めている.
今回我々は,下丘神経回路網の解析のために,in vivo
patch‑clampの技法の導入を行った.具体的には
1.Loose patch clamp法による,下丘神経細胞の音刺激
に対する応 答特性の記録,および記録細胞の染色
2.Whole cell patch clamp法による,膜特性および,
シナプス特性の解析を試みた.
21.背側蝸牛神経核に存在する
Fusiform cellsにおける
GABA
B
受容体を介したシナプス前抑制及びシナプス後抑

入江智彦,大森治紀(京大院 医 生理)
Fusiform cells は双極性の樹状突起を持つ,背側蝸牛神
経核(DCN)の出力ニューロンである.基底樹状突起に
は聴神経が興奮性シナプスを形成するのに対して,尖端樹
状突起には平行線維を介して体性感覚情報が興奮性シナプ
スを形成する.DCNにはグリシン作動性とGABA作動性
のインターニューロンが存在しておりFusiform cellsにシ
ナプスする.グリシン作動性入力による抑制は, in vivo
において音刺激に対するFusiform cellsの特徴的な応答の
形成に関与しているが,GABA作動性入力による抑制は,
GABA
A
受容体を介したシナプス後抑制しか報告されてお
らず,Fusiform cellsに対するGABAの役割は不明確のま
まである.今回,脳幹スライス標本に対してパッチクラン
プ法を適用し,バクロフェン(GA BA
B
受容体のアゴニス
ト)に対するFusiform cellsの応答を記録した.バクロフ
ェン投与により膜抵 抗の減少を伴い過分極した.平行線維
刺激により誘発されたEPSCはバクロフェンで抑制され
た.これらの結果より,GABA
B
受容体を介してシナプス
前抑制と後抑制が起きることが明らかになった.
22.KCNE1 ならびにKCNE2 によるKCNQ1 チャネルの
機能調節
豊田 太1,上山久雄2,丁 維光1,松浦 博1(滋賀医
419
第99 回近畿生理学談話会 ●


科大学・1 細胞機能生理学・2 分子病態生化学)
一回膜貫通型蛋白である
KCNE1 ならびにKCNE2 は
種々の心筋イオンチャネルと機能的に会合することが示さ
れている.心筋電気活動におけるこれらのKCNE蛋白の
重要性は,いずれの遺伝子変異も
QT延長症候群に関連す
る事実から強く示唆されている.本研究は,KCNE1 なら
びにKCNE2 が心筋 I
Ks
を構成するKCNQ1 チャネルの性質
におよぼす効果について検討した.KCNQ1 をKCNE1 と
共発現すると,-40mVより脱分極側で時間依存性に活性
化される外向き電流を誘
発した.一方,KCNQ1

KCNE2 と共発現すると,E
K
付近で逆転する常時活性型の
時間非依存性電流を誘発した.次に,KCNQ1 をKCNE1
とKCNE2 の両方と共発現すると,ゆっくりと活性化され
る外向き電流のみを誘発したが,KCNQ1/KCNE1 電流に
比べ活性化の膜電位依存性が脱分極側にシフトしており,
脱活性化キネティクスも速かった.また,メフェナム酸に
よる脱活性化遅延効果もKCNQ1/KCNE1 電流に比べ有意
にその感受性が低下した.このことから,KCNE2 は
KCNE1 と共に同一KCNQ1 チャネル分子に会合し,心筋
I
Ks
の性質を制御する可能性が示唆された.
23.代謝型グルタミン酸受容体
subtype 1a(mGluR 1a)
による P/Q型Ca2+チャネル(Ca
V
2.1)活性制御の多相性
山崎浩史1,若森 実1,中西重忠2,森 泰生1(1 京都大
学大学院工学研究科合成生物化学専攻,2 大阪バイオサイ
エンス研究所)
Ca
V
2.1 とmGluR1 aは小脳Purkinje細胞の樹状突起spine
に多く発現し,複合体を形成している.α
1A
,α
2
/δ,β
1b
subunitを安定発現したHEK293 細胞にmGluR1aを一過的
発現させ,mGluR1aによるCa
V
2.1 活性の制御を解析した.
3μM Glutamate(Glu)投与でα
1A
電流は 56%に減少し,
Glu投与を続けると 77%まで回復した.Gluを Wash後,
電流は元の電流より 15%増大した.Gi蛋白質の阻害剤
pertussis toxin の処置により,Gi蛋白質はα
1A
電流抑制の
47%を担うことが示された.Phospholipase C(PLC)阻
害剤U73122 を処置するとmGluR1aによるα
1A
電流の修飾
は消失した.PLCβを過剰発現させると,複数回の
Glu刺
激でもCa
V
2.1 活性制御の割合が維持された.PKC阻害剤
と活性化剤の処置によりPKCによるリン酸化がCa
V
2.1活
性制御の一部を担うことを示した.一連の実験から
mGluR1aによるCa
V
2.1 活性の時間依存的な制御機構を示
した.
24.心筋細胞ミトコンドリアの
Ca2+調節機構
金 鳳柱,松岡 達(京都大学大学院 医学研究科 細
胞機能制御学)
心筋ミトコンドリア Ca2+(Ca2+m)の調節機構を解明す
る目的で,Rhod‑2 をサポニン透過性ラット心室筋細胞の
Ca2+mを用いて測定した.無Na+下に,300nM Ca2+液を灌
流すると,Rhod‑2 蛍光は約 9 倍増加し,Ca2+ユニポータ抑
制剤(Ruthenium Red : RR)により増加は抑制された.
モネンシンを用いてNa+を前負荷(20mM Na
+
)しても,
RR存在下には Ca2+m増加は起こらなかった.この実験条
件下では,ミトコンドリアへの
Ca2+流入はCa2+ユニポー
タが主でミトコンドリアNCX(mNCX)の逆交換は関与
しないと考えられた.300nMCa2+投与での定常状態から
Ca2+を除去すると,Na+濃度依存性にCa2+mは減少した.
減少初速度の半飽和 Na+濃度は 1.1mMであった.Na+依存
的C a2+m減少はCGP‑37157(mNCX阻害剤)により抑制
された.mNCXが主要なCa2+m排出機構であると考えら
れた.ミトコンドリア基質(リン酸,コハク酸,ピリビン
酸)除去により,膜電位(TMREで測定)は約 10%に減
少(脱分極)したが,mNCXによるCa2+m排出には著明
な変化は無かった.また,Mg2+(0.2‑5mM)もCa2+m排出
に影響しなかった.
25.Ca2+/Calmodulin dependent kinase II(CaMKII)
モデルの作製および機能制御メカニズムに関する考察
千葉博昭1,Natalie Schneider2,皿井伸明2,松岡 達2,
野間昭典2(1 田辺製薬株式会社,2 京都大学医学研究科・
細胞機能制御学)
心筋細胞は,心拍数に応じて細胞内Ca動態を変化させ
ることができるが,この特性は刺激頻度に応じた心筋収縮
性の変化(Force‑frequency relationship)に大きく寄与し
ていると考えられている.CaMKIIは,細胞内Ca動態の
刺激頻度依存性調節に中心的な役割を担っていると考えら
れており,また心不全の病態への関わりも指摘されている
が,その詳細な機能制御メカニズムについては不明な部分
が多い.そこで今回我々はCaMKIIモデルを作製し,包括
的心筋細胞モデルである京都モデルに機能要素として組み
込み,検討を行った.CaMKIIモデルは,in vitro実験デ
ータを再現できるようにパラメータを調整した.京都モデ
ル内においてはCaMKII活 性化により,L型Caチャネ
ル・リアノジン受容体チャネルおよびSR Caポンプ/
PLBのリン酸化が起こり,細胞内
Ca動態が活性化される
よう設定した.その結果,CaMKII存在下では,刺激頻度
上昇に伴い細胞内Caトランジエントのピーク濃度および
減衰速度が増加し,細胞内Ca動態の刺激頻度依存性を再
現することができた.これらの結果から,CaMKIIの機能
制御メカニズムについて考察を行ったので報告する.
420
● 日生誌 Vol. 68,No. 11
2006


26.脳グリア細胞のK+緩衝機能を担うKir4.1 チャネル
に対する選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)の作
用検討
大野行弘,蘇 素文,稲野辺 厚,日比野 浩,倉智
嘉久(大阪大学大学院 医学系研究科 分子・細胞薬理学)
内向き整流性Kir4.1 チャネルは脳アストロサイトの
K+
緩衝機能に重要な役割を果たしているが,その精神疾患治
療薬との相互作用に関する知見は乏しい.そこで今回,ヒ
トKir4.1 チャネルを発現させたHEK293T細胞を用い,選
択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)のKir4.1 チャネ
ルに対する作用をホールセル・パッチクランプ法により検
討した.SSRIであるfluoxetine,sertralineおよびfluvox‑
amine(1‑100μM)はいずれも濃度依存的にKir4.1 電流を
抑制した.一方,四環系抗うつ薬のmianserinやセロトニ
ン1A系抗うつ薬のbuspironeでは顕著な抑制はみられず,
各薬剤の作用強度はsertraline

_
fluoxetine >>fluvoxam‑
ine >mianserin

_
buspironeの順であった.Fluoxetine
は高濃度においてKir1.1 およびKir2.1 チャネルも抑制した
が,その作用はKir4.1 チャネルに比べ非常に弱かった.以
上の検討から,SSRIが比較的強いKir4.1 チャネル抑制作
用を有することが明らかとなった.
27.G蛋白質制御内向き整流性カリウムチャネルKir3.2
の細胞質領域の立体構造
稲野辺 厚,倉智嘉久(大阪大学大学院医学系研究科薬
理学講座(分子・細胞薬理学))
黒質ドーパミン神経において,GA BAやドーパミンはG
蛋白質制御内向き整流性カリウム(K
G
)チャネルを活性
化し,遅延性の抑制性後シナプス膜電位を形成する.この
ドーパミン神経型K
G
チャネルはサブユニットレベルで
Kir3.2 の同種複合体として機能し,他の神経細胞型チャネ
ルはKir3.1‑Kir3.3 が異種複合体として機能する.K
G
チャ
ネルはG蛋白質βγサブユニットや Na+,アルコール等の
低分子が細胞質領域に直接結合することにより活性化され
る.そのため,これらの活性化因子はK
G
チャネルの細胞
質領域に構造変化をもたらし,細胞膜貫通領域の開閉を制
御していることが推測されていた.本研究では,チャネル
活性化因子によるK
G
チャネル細胞質領域の構造変化の解
明を目的に,アルコールとNa+共存下でのKir3.2 の細胞質
領域の構造解析を行った.その結果,Kir3.2 の細胞質領域
は1)4 量体として存在すること,2)その二次構造の配置
は活性化因子非存在下で解析されたKir3.1 のそれと近似す
ること,3)βストランドβC,βDとの間隙周辺で局所的
に構造を変化させることが明らかとなった.この構造変化
はN a+結合部位と推定されている領域であり,細胞膜貫通
領域に面して分布している.そのため,Na+はKir3.2 の細
胞質領域に局所的な構造変化を導き,細胞膜貫通領域の動
態制御に連関することが推定された.
28.イソプロテレノール誘
導ラット肥大心の心筋スラ
イス酸素消費量
中島千香子1 ,清水壽一郎1,山下大輔1,植谷忠之2,中
山晋介2,三澤裕美1,藤根潔枝1,高木 都1(1 奈良医大・
医・第二生理,2 名古屋大学・医・第一生理)
機械的無負荷状態における左室心筋スライスの一分間あ
たりの酸素消費量(mVO
2
)をイソプロテレノール誘導ラ
ット肥大心と正常心で比較した.非刺激時のmVO
2
は基礎
代謝のmVO
2
(basal mVO
2
)に相当し,フィールド刺激下
のmVO
2
とbasal mVO
2
の差(delta mVO
2
)は興奮収縮連
関による Ca2+ハンドリングの酸素消費量に相当する.肥
大心のbasal mVO 2 は正常心に比べ有意に小さかったが,
肥大心ではコラーゲンが増加しており,心筋細胞とコラー
ゲンの面積比から心筋細胞のみの
basal mVO
2
を計算する
と,肥大心と正常心で有意な差はみられなかった.非刺激
時の PCr/ATPは肥大心と正常心で差はなかった.同様に
求めた心筋細胞のみのdelta mVO
2
は肥大心で有意に大き
かった.delta mVO
2
においては筋小胞体 Ca2+ATPaseに
よる酸素消費は減少し,Na+
/Ca2+交換体とカップルする
Na+/K+ATPaseよるものが増加していた.これらのこと
から肥大心の興奮収縮連関による酸素消費量の増加は,細
胞内 Ca2+の再取り込み率の変化によるものと考えられる.
29.左室容積増大に伴う筋線維格子間隔の狭小化はア
クチン・ミオシンの相互作用を増強する
清水壽一郎1,毛利 聡2,中村一文2,奥山博司3,豊田
弘子3,宮坂武寛2,三浦大志2,高木 都1,辻岡克彦3,梶
谷文彦2,八木直人4(1 奈良県立医科大学第二生理,2 岡山
大学大学院,3 川崎医科大学生理学,4 高輝度光科学研究セ
ンター)
左室容積変化に伴う筋線維格子間隔変化(MLS)とア
クチン・ミオシンの結合・解離動態(AMI)との関係を,
SPring‑8 において行ったX線回折実験により明らかにし
た.120拍/分でペーシングをして等容性収縮を行わせた
ラット摘出心標本の左心室自由壁にX線(15.0keV)を照
射し,左室拡張期末圧(EDP)0 および 20mmHgにおけ
る心外膜下心筋(EPI)と深部心筋(DEEP)からのX線
回折像について解析した.EDPの増大に伴い,EPIおよ
びDEEPのMLSは共に有意に狭小化した(EPI,36.6 to
35.7nm,P<0.01,DEEP,37.2 to 36.9,P<0.01).その
度合いはEPIで有意に大きかった(0.87 v
s 0.29nm,P<
421
第99 回近畿生理学談話会 ●


0.01).しかし,収縮期末における
AMIにEPIとDEEPで
有意差は無かった(0.25 vs
0.29,P=0.69).これらの結果
から,Frank‑Starlingの法則には筋線維格子間隔の狭小化
が関与するが,他の分子メカニズムの関与も考えられる.
30.ヒト低分化型胃癌細胞株におけるループ利尿薬の
増殖抑制効果
塩崎 敦12 ,宮崎裕明1,新里直美1,中張隆司4,糸井啓
純5 ,山岸久一2,丸中良典13(京都府立医科大学大学院1
生理機能制御学,2 消化器腫瘍制御外科学,3 呼吸器病態制
御学,4 大阪医科大学生理学,5 明治鍼灸大学外科学)
【緒言】癌の周術・終末期水分管理に用いられるループ
利尿薬は,Na+/K+/2Cl-共輸送体(NKCC)を阻害する.
近年,細胞生命・機能維持におけるイオン輸送体の重要性
が報告され,癌治療への応用も期待される.今回,ヒト胃
癌細胞株を用い,NKCC発現レベルと分化度の関係,
NKCC阻害薬(furosemide)の増殖抑制効果を検討した.
【方法】ヒト胃癌細胞株(MKN28,MKN45)を用い,
real‑time PCRによりNKCC1 mRNA発現レベルを測定し
た.NKCC機能活性は,NKCC阻害薬感受性細胞容積減
少率により測定し,細胞増殖は
Direct count法にて,細胞
周期はフローサイトメトリーにて解 析した.【結果】
MKN45(低分化型腺癌)のNKCC1 mRNA発現レベル・
機能活性は,MKN28(中分化型腺癌)よりも高かった.
NKCC阻害薬は,MKN45 においてのみG0/G1 停止による
増殖抑制効果を示した.【結語】胃癌細胞において,
NKCC発現レベルは分化度と関係し,高発現細胞ではル
ープ利尿薬の増殖抑制効果が期待できる.
31.細気管支上皮細胞における線毛運動の活性化機構
駒谷暢代12 ,中張隆司3,河野健二1,岩崎吉伸1,丸中良
典12(京都府立医科大学大学院
呼吸器病態制御学1,生理
機能制御学2 ,大阪医科大学生理学3)
粘液線毛クリアランスは肺における宿主防護機構であ
り,内因性,外因性刺激物質を喀痰として排泄し,感染・
炎症等から肺を保護するとともに肺胞腔を清潔にし,ガス
交換を容易にしている.今回,我々は単離ラット細気管支
上皮細胞の線毛運動を500 images s-1のFASTCAM‑Net
high‑speed camera(Photron)で観察した.このシステム
により 1サイクルの線毛運動が更に詳細に直接観察でき
cilia beat frequency(CBF)の増減だけでなく線毛の振幅
も測定することが可能となった.細気管支上皮細胞の静止
時のCBFは6 .2±0.3Hzであり,また,振幅角度は,
76.0±3.7°であった.β
2
adrenagic agonistであるterbu‑
talineは濃度依存的に線毛運動を増強した.しかし,CBF
と振幅のterbutaline濃度依存性は異なっていた.すなわ
ち,terbutalineに対する振幅の感受性の方が約
10 倍高い
事が明らかになった.この
terbutalineによる反応はCa2+
除去によって影響を受けず,forskolinおよびIBMX
(phosphodiesterase阻害剤)により再現された.このこと
からterbutaline の反応は,cAMPを介したものであるこ
とが明らかとなった.以上のことより,細気管支上皮細胞
における線毛運動のterbutalineによる活性化はcAMPを
介し,周波数のみならず振幅も増大することが示された.
32.胃癌細胞株における
NHE1 阻害剤による増殖抑制
効果
細木誠之1 ,宮崎裕明2,丸中良典12(京都府立医科大学
大学院 1呼吸器病態制御学,2 生理機能制御学)
細胞内pHの低下が細胞増殖において抑制的に働くこと
は知られている.癌細胞では,糖やアミノ酸代謝が亢進し
ており,正常細胞よりも多くの酸(H+)を産出している
にもかかわらず,腫瘍細胞の細胞内pHは正常細胞内pH
に比べて高い状態にある.このことから,腫瘍細胞におい
ては,H+輸送体の機能亢進により,大量に産生されたH+
が細胞質から除去されていると考えられる.本研究では,
分化度・増殖速度の異なる胃癌細胞株(MKN28,MKN45)
を用い,H+輸送体であるNHE1(Na+/H+exchanger)の
発現と,NHE1 阻害薬に対する増殖抑制効果につい て検討
した.NHE1 のmRNA発現をreal‑time PCRにて比較した
ところ,増殖速度の速い低分化腺癌であるMKN45 におい
て,発現が亢進していた.また,NHE1 の阻害薬である
dimethyl‑amiloride(DMA)処理により,特にMKN45 に
おいて増殖抑制効果が強く認められた.さらに,増殖抑制
のメカニズムの解明のため,フローサイトメーターを用い
て細胞周期解析を行い,細胞周期のどのステージで遅延,
休止しているかを評価した.以上の結果から,ヒト胃癌細
胞では,NHE1 発現および活性レベルが,増殖に密接に関
わることが示唆された.
33.神経突起伸長に対するクロライドイオン輸送体の
役割
中島謙一,宮崎裕明,新里直美,丸中良典(京都府立医
科大学大学院生理機能制御学)
【目的】神経細胞における神経突起伸長には,微小管を
はじめとする細胞骨格系の再構築が深く関わっていること
が知られている.一方,細胞内
Cl-濃度変化は,細胞増殖
や細胞骨格系再構築を含む様々な細胞機能制御に関与して
いることが,近年の研究より明らかになってきた.本研究
では,Cl-輸送体としてNa+/K+/2Cl-共輸送体(NKCC1)
422
● 日生誌 Vol. 68,No. 11
2006


に着目し,神経突起伸長に対する
NKCC1 の役割,および
神経突起伸長の Cl-要求性を調べた.
【方法】ラット副腎由来PC12D細胞は,神経成長因子
NGF処理により神経突起を伸長する.PC12D細胞をNGF
処理する際に,NKCC1 阻害剤Bumetanideを同時に作用
させ,伸長した神経突起の長さを測定した.また,Cl-濃
度が低い培養液中でNGF処理を行い,同様に突起の長さ
を測定した.
【結果・考察】Bumetanide処理,および低Cl-濃度の
培養液により,神経突起の伸長が有意に抑制された.
NGF処理により,NKCC1 の発現量増加が見られた.また,
間接蛍光抗体法および
GFP標識法による観察より,
NKCC1 は神経突起先端に多く存在していた.これらの結
果から,NKCC1 を介した細胞内へのCl-の取り込みが,
神経突起の伸長を促進することが示唆された.
34.short‑circuit current法によるparacellular ion con‑
ductanceの測定
徳田深作,新里直美,丸中良典(京都府立医科大学大学
院生理機能制御学)
上皮細胞や内皮細胞のtight junction(TJ)はイオンな
どを選択的に透過することが知られており,これによって
生体内の環境は適切に維持されている.しかし,細胞間隙
イオンコンダクタンスの測定法は未だ確立されていないた
め,TJのイオン透過性の制御機構は十分には解明されて
いない.そこで,今回我々は細胞経由のイオン輸送を阻害
した条件においてshort‑circuit current法を用い,細胞間
隙イオンコンダクタンスの測定法の確立を試みた.その結
果,等浸透圧の条件では細胞間隙のコンダクタンス(Gp)
は電位非依存性であった.また,Gpは測定時の溶液に含
まれるイオン強度に比例していた.これらの結果に基づき,
細胞間隙の Na+・Cl-コンダクタンス(G
Na
,G
Cl
)を算出す
ることが可能となった.次に,詳細なG
Na
,G
Cl
についての
検討を行ったところ,G
Na
は,Na+・Cl-の流れる方向や濃
度勾配に関わらずG
Cl
よりも大きく,G
Na
とG
Cl
の比はほぼ
一定であった.さらに,管腔側から血管側へのNa+・Cl-
の流れはGp の経時的増加を,逆方向の流れは経時的減少
を引き起こした.これらのGpの変化は生体内のイオン環
境の維持に貢献しているものと考えられた.
35.水の動きによるparacellular ion conductanceの調

徳田深作,新里直美,丸中良典(京都府立医科大学大学
院生理機能制御学)
腎A6 細胞において,低浸透圧刺激は細胞経由のNa+再
吸収を促進することが知られているが,細胞間隙に対する
影響についてはほとんど報告されていない.そこで,われ
われは先に述べた細胞間隙のイオンコンダクタンス測定方
法を用い,浸透圧変化の細胞間隙に対する影響についての
検討を行った.その結果,血管側の低浸透圧はNa+選択的
な細胞間隙コンダクタンス(Gp)の増加を引き起こした
が,管腔側の低浸透圧は細胞間隙コンダクタンス(Gp)
に対して大きな影響を与えなかった.一方,管腔側の高浸
透圧は Na+選択的なGpの増加を引き起こした.これらの
結果より,細胞間隙の血管側から管腔側への水の移動によ
って Na+選択的なGpの増加が引き起こされると考えられ
た.次にNa+をNMDGまたはCl-をgluconateに置き換え
た条件で同様の実験を行ったところ ,上記の反応は認めな
くなった.これらの結果より,細胞間隙の血管側から管腔
側への水の移動に Na+・Cl-の管腔側から血管側への移動
が加わることよって Na+選択的なGpの増加が引き起こさ
れると考えられた.以上より,細胞経由のイオン輸送だけ
でなく細胞間隙を経由したイオン輸送についても浸透圧変
化によって調節を受けていることが確認された.
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第99 回近畿生理学談話会 ●

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时间(じかん)を発表した:2010-03-12   ファイルサイズ:0   フォーマット:pdf ファイル
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