市場経済化後における医療保険制度の現状

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現代社会文化研究No.44 2009年3月

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市場経済化後における医療保険制度の現状

――中国・長春市を中心として――

舒 瑾

要 旨

随着中国市场经济体制的转换 ,诸制度改革的逐步实施进程中,医疗保险制度的改

革已初见成效, 但仍处于需调整・健全和完善的阶段。自1998 年12 月国务院颁布《国

务院关于建设城镇职工基本医疗保险制度的决定》以来近 10 年的这一段时间里,各地

区政府在 98《决定》的基础上,结合当地的实际经济状况,制定了一些适合的实施方案。

即:与社会主义市场经济体制要求和地方财政,用人单位, 个人承受能力相适应的,

保障城镇职工基本医疗需求的社会医疗保险 制度。那么,各地区的基本医疗保险的运行

现状是怎样 的?通过运行取得了那些成果?而制度本身还存在着怎样的问题?本文在

此以中国东北的工业发达城市长春市为 中心,对基本医疗保险制度的运行现状进行研究

分析。

キーワード……財政改革 社会保障制度 基本医療保険制度 長春市

はじめに

中国の都市部では、1950 年代初めから、「公費医療制度」(主に公務員が対象)と「労働医療

保険制度」(100 人以上の集団経営、国営企業の従業員が対象)による「無料医療」が行われて

いた。

これらの医療制度は市場経済への転 換によって、徐々に制度自体に多くの欠陥が出てきた。

そこで、市場経済に対応できる医療

制度が模索され、中国政府は

1997 年に全国第1回衛生工作

大会を開催し、「中央国務院衛生改革と発展に関する決定」を行い、全国で都市部労働

者の基本

医療保険制度、医療衛生体制および医薬品の生産流通体制という 3 つの部門の改革、いわゆる

衛生医療分野の「三項改革」を展開し始めた。1998 年、国務院は「都市部労働者の基本医療保

険制度確立に関する国務院の決定」(以下、「決定」と略称)を公布した。それ

までの公的医療、

労働保険制度が廃止され、全国の各都市で都市部労働者の基本医療保険制度の改革が全面的に

廃止された。「決定」に基づき、基本医療保険を含めて、補充医療保険、商業保険、社会救助な

ど多元的医療保障体系が中国の都市部で確立しつつある。

新しい都市部労働者に対する基本医療保険制度の大体の枠組みを策定している「決定」は、





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以後統一される全国の医療保険制度 の基本となり、各地方で改革案を策定する場合の基準にな

っている。しかし、この決定は医療制度改革に関する国のガイドラインにすぎず、具体策は地

方政府によって個別に実施されてい る。したがって、中国の社会保険制度は、地域経済発展レ

ベルを反映して地域により異なって いる。このような事情もあり、全国統一的な研究は進んで

いない。それだけではない。医療保

険制度改革からおよそ

10 年の歳月を経ているにもかかわら

ず、先行「実験」地方政府における医療保険財政に関する実証分析すらいまだ手薄である。そ

のような意味から、特定先行「実験」都市の研究は急務と思われる。

本論文では、市場化転換後における、中国・長春市を中心として都市部基本医療保険財政を

概観する。そのさい、現行医療保険制度の成果と限界を検討し明らかにしていきたい。

本論文の構成は以下の通りである。第 1 章では、財政改革による社会保障制度へ影響を分析

する。第 2章では、長春市における現行医療保険制度の内容とその特徴を抽出する。第 3 章で

は、長春市における現行医療保険制度の限界を検討する。

1. 財政改革による社会保障制度の転換

(1)計画経済体制下の社会保障財政

1980 年代まで、中国の財政制度は基本的に「統収統支」1) 原則のもとで行われていた。経済

政策としては、資本蓄積のため重工業発展戦略を打ち出した。重工業発展戦略の制約を克服す

るため「人民公社」2) 、「国有企業」3) という制度を設計した。

計画経済体制の下で、政府間・政府企業間財政関係(統収統支)に関し、次の 2 つのルート

が設けられた。①中央→省→市→県→郷、②各級政府→国有企業。つまり、財政資金は最終的

に中央政府のもとに帰する。財政支出と収入の権限は中央政府に集中していたが、収支の実務

の大半は地方政府に任されていた。一本予算4) 方式の下で、地方政府は中央政府の出先機関と

して、中央政府の指令・許可に従わなければならなかった。政府企業間財政は、各種税収より

国有企業・事業収入のほうが多かった。財政収入において、国有経済部門からの貢献が絶大で

あった。国有企業や集団企業が中国経済の担い手になっていた。計画経済期の労働保険制度が

国有・集団企業の労働者のみを適用対象にした理由は、ここにある。政府は企業の所有者で、

企業の収入を吸い上げて、企業に必要な資金を与えた。企業収入が上納される前に賃金および

年金・医療などの保険料が生産コストとして計算され控除された。財政収入から社会保険料も

控除された。つまり、社会保険料は政府財政によってまかなわれた。これを中央財政・地方財

政関係からみれば、社会保障制度は政府財政によって支えられたことを意味している。資本主

義にある再分配の社会保障体制とは 異なる社会主義体制的"国家保障"と言ってよい。

計画経済期における地方政府は、国有企業の実質的所有者として、財政支出を通して生産資





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金を提供した。また財政支出を用いて、国有企業を通して社会保障機能を発揮した。国有企業

では「低賃金・高就業」の労働雇用制度によって、完全雇用、終身雇用が確保され、賃金と一

緒に年金や医療の費用を先取り「単位」5) の社会保障を行っていた。

1951 年に創設された労働保険の主要な柱の一つである旧医療保険制度の最大の特徴は、次の点

にあった。すなわち、先進諸国の社会保険制度が政府・企業・労働者の 3 者による財源負担によって運

営されているのとは異なり、企業が全額財源負担(前述したように経済体制の下では実質上は国家から

の資金提供を意味)する基本的に無料型医療保障を実施していたことにあった。計画経済体制の下で

は、財務面においても統一収入・統一支出が実施され、医療保険料ない

し医療保険給付費を含む「社

会保障費用」は営業外支出として純利益から控除された。また、社会保障費用が不足した場合には、

国家から資金提供を受けることがで きた。したがって、数多くの退職者を抱えていた企業や赤字経営に

陥っていた企業においても、「社会保障費用」の増大に対する負担感を感じることはなかった。

1976 年10月、文化大革命が終息した。そして、

1978 年に開催された中国共産党第 11 期第 3 回中

央委員会総会で 改革・開放政策が打

ち出された。政府システムの大幅な改革が始まり、これにより労働

保険(社会保険とも言う)に関し、新しい諸問題が生じた。労働保険の一部である医療保険も例外では

なく、当然その改革が迫られてきた。

(2) 市場経済転換後における社会保障財政

1984 年に、従来の利潤上納税制を法人税

制に転換する税制改革が始ま った。1985 年からは経営

請負責任制が実施された。財政改革により政府企業間の財政関係が変わった。社会保障・福祉給付

に多様化の要素が組み込まれ、企業基金の創設と利潤留保に関する規定が設けられ、「統収統支」の

財政制度を変更し、企業の自主経営権6) を拡大させた。他方、これらの政策は、従来の全国一律の社

会保障・福祉給付に多様化の要素をもたらした。だが、政府財政のパックアップが縮小されていくにつ

れて、このような政策は企業自身の生産コスト増を招いてくる。それに伴い、医療保険給付は実質的に

政府負担から国有企業負担に変るこ とになった。つまり、医療保険給付の負担が国有企業の経営状況

に直接影響を与えることになった。

社会的には、高齢化の進行が指摘されるようになった。定年退職者が増加し、医療保険給付額も増

加し始めた。医療・年金など多面的な保障を強いられていた国有企業は、労働保険条例の対象外にあ

った他の経営形態(外資系企業、私営企業など)に比べて不利な競争条件に直面することになった。

このような医療保険制度の構造的欠 陥が医療費を急増させた。これが企業に重い負担をかけた。一

部経営難企業は医療費負担に耐えら れなかったため、その医療資金の一部あるいは全部を従業員に

振り分け、個人請負の措置に変えてしまった。とくに、経営難に陥った国営企業の中には、多くの従業

員の医療費が1年に数十元ほどしか ないケースもあった。多くの部門において、従業員の医療費が長

期にわたって精算できず、医療費の支払いが遅れ、重病にかかっても治療を受けられない現状もあっ





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た。

1990 年代から、中国の医療保険制度に幾つかの改革が試みられた。たとえば、

1998 年12月、国務

院は「都市職員・労働者の基本医療保険制度の整備に関する国務院決定」(中国語:「関於建立統一

的企業職工基本医療保険制度的決定 」以下「98 年医療改革決定」と略する)を公布し、全国的に統一

された体系的基本医療保険制度を作

った。医療保険制度改革は都市部労働者の

基本医療保険制度

の確立をはかった。つまり、社会主義市場経済体制に対応し、財政・企業・個人の三者で、労

働者の基本医療需要を保障する社会公的医療保険制度の確立を目指した。

そのさい、各実験地における法案の不統一、個人口座拠出率の不一致、企業負担の不平等、社会

統合レベルの低さなど諸問題を解決 する必要が生じた。そこで、都市部労働者の基本医療保険制度

は原則として、都市部のすべての雇用側と労働者を基本医療保険制度に加入させ、所属する地

域ごとに管理することにした。基本医療費は雇用側と労働者両方で共同負担することになって

いた。この下で、社会からの徴収と個人口座の結び付けをはかり、そして都市労働者の基本医

療保険基金を設立した。その結果、医療制度の加入対象企業範囲がさらに拡大した。また、国有企

業に限らず外資系企業を含むすべて

の企業と従業員に広げることに、進

展がみられた。加入者数は、

「決定」を実施した翌年の 2065 万人から、2007 年年末には 1 億 8020 万人に増加した。また、基金の収

支バランスも維持された。各年度会計は制度開始年から黒字が保たれ、2007 年末までの積立残高は

2476.9 億元となっている(表1)。

表1 都市部基本医療保険の基本加入状況

保険に加入する人数 (万人)

基金の運営状況 (億元)

年度

労働者・職員

退職者

収 入

支 出

累積余剰

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

2006

2007

2065.3

3787.0

7285.9

9401.2

10901.7

12403.6

13782.9

15731.8

18020.0

1509.4

2862.8

5407.7

6925.8

7974.9

9044.4

10021.7

11580.3

13420.0

555.9

924.2

1815.2

2475.4

2926.8

3359.2

3761.2

4151.5

4600.0

89.9

170.0

383.6

607.8

890.0

1140.5

1405.3

1747.1

2257.2

69.1

124.5

244.1

409.4

653.9

862.2

1078.7

1276.7

1561.8

57.6

109.8

253.0

450.7

670.6

957.9

1278.1

1752.4

2476.9

注:データは各年度末のものである。出所:『2008 年中国統計年鑑』





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(3) 長春市・社会保障財政

分税制改革は中央政府と地方政府の間の機能分担についての再規定に照応し、それぞれに相

応しい独立した税源を与えることを 意図していた。たとえば、消費税は中央政府、営業税と個

人所得税は地方政府、増値税は共有税、というのが分税の基本であった。しかしながら、中央

―地方政府間の機能分担および中央-地方政府間の支出シェアに関しては大きな変化がない。

また、2002 年1月に企業所得税、個人所得税を共有税にすると発表した。この修正は 2003 年

に実施された。

表2 が示すように、長春市では、2001 年まで地方財政から企業に与える保険福利費用を設け

ていた。この保険福利費用は、労働者保険福利費と離・退職者保険福利費と 2 つに分けられて

いた。労働者保険福利費は、賃金以外の福祉事業に使う費用(医療衛生費、生活保障補助金、

福祉事業補助金、福祉施設管理費、生育補助金、宣伝費など)である。また、離・退職者保険

福利費は離・退職者の離・退職金、退職後生活費、医療衛生費、看護費、生活補助金、交通費

補助金、葬儀費などを含む。

中国の財政関係のなかには、中央政府と地方政府の間に項目別補助金と「過渡期移転支出」

という 2つの資金の流れがある。2003 年、長春市は社会保障補助金制度を設けた。そのうち、

基本医療保険制度補助金給与基準は 以下の通りである。①低所得者の保

険料は市財政 50%、区

財政 50%負担する。②基本医療保険制度の

未加入者 (労働模範者)の保険料は

市総工会 50%個

人50 %負担する。③障害者手帳を持っている貧困者が 20%、その市・区財政が 40%ずつ負担

する。④都市部戸籍を持つ、

60 歳以上(満60歳を含む)の居住民に対し、市財政は 100 元補

助金を出す。⑤中小学校学生

7)

の保険料については毎年市財政から

1人 10元補助金を出す。⑥

《再就職優遇証》を持参し、短期雇

用契約をした基本医療保険制度の加入者に対し 1 人年間 80

元補助金を出す。その他、短期雇用者にも 1 人年間 50元補助金を出す。

表2 長春市財政収支状況 (単位:万元)

地 方 財 政 予 算 内 支 出

年 度

中央財政

予算内収入

地方財政

予算内収入

離・退職者

保険福利費

社会保障

補助金支出

そ の 他

2000年 456,631

303,609

510,892

291,467

― 219,425

2001年 482,442

362,628

589,717

313,670

― 276,047

2002年 524,053

378,217

700,655



― 700,655

2003年

― 459,709

858,308

― 77,702

780,606

2004年

― 506,9231,007,695― 105,732901,963

2005年

― 610,3381,216,573― 147,4561,069,117

2006年

― 715,9081,468,077― 150,7661,317,311

2007年

― 932,9511,815,633― 331,4591,484,174

注:その他について、主に基本建設の財政支出である。

出所:中国統計出版社 各年度『吉林統計年鑑』より作成。





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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ところで、日本の例になぞらえてみると、中国のばあい、予算を配分しその支出を監視統制

するのは財政部局(日本の財政課に相当)である。財政部局は、予算内資金(日本の一般会計

に相当)と並んで、予算外資金(日本の特別会計に相当)という比較的に独立性の高い基金も

運用しているが、そのうち、医療保険財政は予算外資金に属している。

それに対し、中国の予算内資金はこのようになっている。中国の予算外資金は、さまざまな

行政部局がみずからの権限などを通 してさまざまな名目で調達し、財政当局の統制から自由に

処分しうる財政資金である。各行政機関がそれぞれの特権や権限に基づいて管理費と称する一

種の権利的賦課を貸している場合も あれば、みずから子会社を作って事業させて利益を上納さ

せ、職員の福利厚生などに当てている場合もある。予算外資金については、単一項目の収入で

はなく、さまざまな上部団体によるさまざまな名目での複数の賦課の総称ともいうべきもので

あろう。

2. 長春市・基本医療保険制度の基本状況

すでに述べてきたように、国務院「都市部従業員の基本医療保険制度確立に関する決定」に

基づき、基本医療保険は城鎮(都市部)のすべての雇用側、すなわち企業(国有企業、集団企

業、外国投資企業、私営企業など)、機関、事業部門、社会団体、民間の非営利団体及びその労

働者をカバーしている。郷鎮企業およびその労働者、都市の自営者・起業者とその従業者も各

地域の人民政府の判断により基本医療保険に加入することが可能である。全国各省、自治区、

市などの政府は「**省(市)基本医療保険制度改革に関する通知(規定)」を公布し、「決定」

に基づき、各地の特色をもつ基本医療保険制度を実施し始めた。各省、自治区、直轄市は、現

地の経済レベル、医療需要と医薬品使用習慣に基づき、国家制定の"乙類目録"医薬品総数の

15 %を超えない範囲で適切に調整を行い、各自の「基本医療保険の医薬品リスト」を定めた。

そのような全国的な動向を前提とし て、本節では、長春市における基本医療保険制度について

概観していく。

長春市は吉林省の省都である。中国東北地方の政治・経済・文化の中心地で、6 市区、3 県級

市、1 県を管轄する。全市面積 2 万 571 km²、総人口は744.58 万人(人口密度361.4 人/km²)。

長春市の国内生産総値(GDP)は 2,074 億元、1 人あたりGDPは 27,651 元である8) 。

長春市および長春市が管轄する直轄 県の場合、2001 年 10 月 10 日、正式に基本医療保障制度

が導入された。そして、年末までに市内の 19 箇所医療機関、17 軒指定薬局および医療保険サ

ービス提供機関と契約を結ぶことが できた。基本医療保険に加入者は

31 万人に達した。その中

の3 万9000人がIDカード(ピンク色の保険書)を持参して、医療サービスを受けた9) 。2007

年末には 113万1795 人10) の都市部企業労働者が基本医療保険に加入した11) 。





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表3 長春市基本医療保険の基本加入状況(2003~2007年) (単位:万人)

年 度

2003 2004 2005 2006 2007

基本医療保険加入者

640730 846000 938558 1125319 1131795

出所:中国統計出版社『吉林統計年鑑』2004~2008 年度版より作成

地方によって、基本医療保険の適用範囲、給付割合が異なる。長春市では、個人企業(経営)、

自由業も明確に基本医療保険の適用 範囲内に含まれた。2007 年 3 月 28 日、長春市管理部門が

「タクシー業界従業者加入の居民住院医療保険に関する工作会議」をひらいた12) 。そして、15000

余名のタクシー運転手も都市部基本医療保険の対象になることが決定された。

長春市における基本医療保険制度 は、市内に居住している者(個人・世帯)を単位とする強

制加入制になっている。①個人納付保険料、②企業負担、そして③政府補助料の 3 納付基準に

基づいて、医療サービスをうけるこ

とになっている 。主な内容は以下の

とおりである(表

4)。

保険対象者は、都市部のすべての事業所、具体的には企業(国有企業、集団企業、外資系企業、

私営企業など)、中央政府や地方政府の機関、事業単位、団体等の労働者・従業員である。これらの

人々は基本医療保険に参加すること が義務化づけられている。それに対し、郷鎮企業と都市部の自営

業者の場合、基本医療保険に参加するかどうかは、各地の地方政府(省や主要都市)ごとに決定され

る。一般に自営業者、個人企業従業員、自由業者、郷鎮企業従業員は対象外であるが、長春市では

任意加入が認められている。また、都市部出稼ぎ農民の場合、長春市で労働期間中なら、都市労働者

基本医療保険に加入することができる。

保険料は労使で負担し、基本的に企

業より従業員総賃金の7%前後と個人より給料の 2%が納付さ

れる。これらの保険料は、企業を通じて保険者が管理する社会医療保険基金に積み立てられる。社会

医療保険基金は社会プール医療保険

基金と個人口座に入る。そのうち個

人納入の全額と企業納入の

30 %が保険加入者の個人口座へ繰り入れられ、残りの 70 %分が社会プール基金に積み立てられる。

個人勘定として積立部分をもつので 、適用企業の退職者もこの制度によってカバーされる。なお、医療

保険基金の救済と税金の免除および医療保険管理部門の経費には国庫負担が当てられ、保険料率

は経済成長の状況によって調整でき ることとなっている。個人の加入者は

1人年間の保険料が 200 元

であり、0~18 歳の未成年者の保険料が 1 人年間 45 元である。なお、都市部の出稼ぎ労

働者の保

険料が毎月 10元、そのなかは雇用企業が 8 元、個人自己負担が 2 元で、3 ヶ月ごとで納付する

ことが決められる。

また、都市部労働者基本医療保険制度では、経営状態の良い企業には追加的な企業負担(ただし

賃金総額の4 %以内)があって、それだけ多くの医療費補助ができる企業補充保険13) を認めている。さ

らに、この企業保険制度では、こうした労働者と企業が負担し合う公的医療保険に加えて、民間医療保

険に加入することも認められている 。個人口座には預金利息がつき、本人死亡時には残金が遺族によ

って相続される。また、個人口座のポータビリティが保証されている。





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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表4 中国長春市基本医療保険制度の保険料納付基準と給付範囲





保険料

納付基準

最高給付

限度額

支 給 範 囲

従 業 者

45 歳以下45歳以上

退 職 者

個人口座

毎月入金額

3% 4% 4.5%

出稼ぎ労働者・下崗者

まず個人口座より支払う、不足金額が自己負担

スタートライン

スタートライン以上、

最高給付限度額以下











乙類薬品と医

療項目、自己負

担額

省以上



区以下





1268



975



683



20% 85

% 88% 91%













退



1268



975



683



10% 87

% 90% 93%













保険加入

者は前年

度平均月

給の2%、

雇用側は

労働者の

給与総額

の7%

1-39008







従業

退職

20%

20%

30%

30%

70%

70%





1年間内外来医療費個人負担金額

累計 2000元以上

公務員医療

補助金額

退職者自己

負担金額

2001~3000元 60

% 40



3001~5000元 70

% 30







5001~8000元 80

% 20



年度内で発生した入院費用、統合基

金最高給付限度額以下、自己負担

60% 40

















加入する

単位は給

与総額の

3.5%

1-79008







累積金額が江基本医療保険最高給

付限度額以上1―40000 元

80% 20



費用以外

高額医療補助給付

自己負担

1-30000元 75

% 25



基本医療保険最高給付額(公

務員補助)以上1-150000 元

30001元―150000 元

85% 15



5001-10000元 25

% 75















保険加入

者一人ず

つ年間保

険料 50元

保険加入者一年度内、入院医

療費(外来高額医療費含む)

自己負担金額累計 5000 元以上

10001元以上 30

% 70



出所:長春市医療保険経

刅 中心「医療保険政策汇編」2003 年 1 月より作成。

給付については、医療給付の費用と被保険者となる労働者の平均賃金との関係で 3 つに区分され

ている。①当該地区の年平均賃金の 10 %を基準にして、基準以下の医療費については個人口座から





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の支払か自費負担となる。②基準以上の医療費については、一部自己負担を除いて社会プール基金

から給付される。③最高給付額は、年平均賃金の 4 倍と制限されており、それ以上は自己負担となる。

あるいは任意加入の民間保険にゆだ ねる。ここで労働者・職員の平均賃金の 10%前後という範囲を持

った基準をとるのは、地方行政単位ごとに設けられる医療保険基金の財政が、その地方ごとに相違する

ことを反映している。

3.長春市・基本医療保険制度の成果

「決定」からほぼ 10年が経過した。長春市基本医療保険制度は、2001 年 9 月の実施から 2008

年までの間に数回の改正を経ている 。そこから以下のような成果を指摘しうると思われる。

(1) 加入範囲の拡大

・0~18 歳の未成年者の医療保険

1998 年の「決定」では、従業員の扶養家族として、0~18 歳の幼児・青少年の医療費をカバ

ーしないことが決められた。ただし、一部の収益の良い企業や事業部門では、扶養家族である

未成年者の医療費の一部を負担して いる。したがって、ほとんどの場合、商業保険に頼るか、

自己負担となる。これは、厳しい社会問題になっている。

長春市では医療制度の改革の推進に つれて、未成年者も明確に基本医療保険の適用範囲内に

組み込こんでいった。保険料は

1人年間 45元である。その内訳は、地方政府の財政補助金が

10元、そして個人負担が 35 元である。中小学校学生たちの場合は、指定医療機関を問わず、

入院治療費給付のスタートラインが 100 元に定められている。最高給付額は 5 万元に定められ

た。だが、白血病及び悪性腫瘍に掛かった中小学生と児童の場合、最高給付額はそれより高い

6 万元である。医療費の金額によって、自己負担率も異なっている。「意外傷害」の場合は、

外来としての治療費(100 元~5000 元)の 20%が自己負担になる。

表5 中小学校学生、児童と十八歳未満の学校に在籍しない都市部住民の自己負担率

スタートライン

~5000元

5000元~

10000元

10000元~

30000元

30000元~

50000元

白血病及び悪性腫瘍を掛かった中

小学生と児童 50000元~60000 元

35%

30% 25% 20% 20%

出所:長春市労働和社会保障局『長春市城鎮居民基本医療保険政策解読』より作成





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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・都市部出稼ぎ労働者

中国では、戸籍制度が設けられ、都市戸籍と農村戸籍とに分けられている。戸籍制度が、中

国の都市化を抑制してきた。しかし、近年、都市で住宅購入や投資する農村戸籍を持つ人に、

都市戸籍を与えるなど、厳しかった戸籍制度を緩める傾向が出てきた。

"農民工"(都市部出稼ぎ労働者)は中国の経

済発展に大きく貢献した。とくに外

資企業にと

って、欠かせない低コストの労働力

源になっている。しかし、"農民工"が都市で働き、生活し

ながら、都市労働者基本医療保険にはカバーされていなかった。長春市では、都市部出稼ぎ農

民が、都市での勤労期間中なら、都市労働者基本医療保険に加入できるようなシステムも作ら

れた。長春市の企業で雇用されている出稼ぎ労働者(男性 60 歳未満、女性 50 歳未満、長春市

の戸籍を持ってない)はその企業を単位とする都市部基本医療保険に加入することができる。

保険料は 1人毎月10元である。その内訳は、雇用企業が 8 元、自己負担が 2 元で、3 ヶ月ごと

で納める。

また、基本医療保険制度の加入意

欲を高めるために、"早参保早受益"という優遇政策が

とら

れた。この制度によれば、2007 年 12 月 31 日までに基本医療保険に加入した場合、保険者は保

険料を納めた 2ヶ月後に統合プール基金より医療給付を受けることができる。その後に加入し

た者は、4 ヶ月後に統合プール基金よりの医療給付を受けることができる。また、満 18~50 歳

の長春市の在住者(在籍学生を対象外)が 2 年間続けて基本医療保険制度に加入した場合、入

院給付率が1%増(80%まで)になる。

・自営業者、失業者、無職者

中国では、法定就職年齢(18 歳以上~定年対象年齢未満)で都市戸籍を持ち、かつアルバイ

ト、自営業など非固定的な仕事をする人を、"零活就業人員"と呼んでいる。そ

の中に、国有企

業をリストラされた労働者("下崗、失業人員")、フリーター、無職者、自営業者が含まれてい

る。経済発展につれて、"零活就業人員"の人数が増え、社

会の中で無視できない割合となって

きた。高度経済成長期における日本人労働者と異なり、中国では、彼らの労働時間、収入、仕

事場、労働契約関係は不安定である。

国有企業の"下崗、失業人員"は、基本医療保険費、雇用側と個人の給付分を含めて、再就

職支援センターより、地域前年度の労働者平均収入の 7 %を基数として納める。基本的に、失

業、無職の人は基本医療保険には参加できない。しかし、市区、県などの職業紹介センターに

個人"档案14) "が保存されている人は、センターを通じて加入できる。長春市の保険料は 1 人

年間 200元に定められている。2007 年末の統計によると、長春市の自営業者人口数は 42 万 6938

人である15) 。ほとんどの都市の自営業者が、保険費用自己負担で基本医療保険に加入すること

になっている。





現代社会文化研究No.44 2009年3月

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(2)入院医療費給付のスタートライン

保険加入者は、指定医療機関を自由に選んで受診できる。また自分で指定医療機関から薬を

購入してもよいし、指定薬局で処方して貰ってもよい。だが、ランクの違う指定医療機関で診

察を受ける場合、個人負担の医療費の比率には差があるため、保険加入者は基本ランクの指定

医療機関から優先的に受診することが求められる。

表6 一般住民の自己負担割合

区級医療機関

市級医療機関

省級及び省級以上医療機関

スタートライン~5000 元 50

% 60

% 70



5000元~4.5万元 40

% 50

% 60



出所:長春市労働和社会保障局『長春市城鎮居民基本医療保険政策解読』より作成

中国には「小病大養」16) という社会問題がある。これを防ぐために、指定医療機関による保

険加入者の入院医療費給付スタート ラインが定められている。この金額は省及び省レベル以上

の指定医療機関の場合

900 元、市レベル指定医療機関で 600 元、区レベルの指定医療機関で 300

元である。なお、中小学校学生たちが指定医療機関を問わずに受診する場合、その入院治療費

給付のスタートラインが

100 元で定められている。これは人情的な政策だと思われる。

(3)社区の役割

1997 年、中国政府は、「衛生改革と発展に関する決定」として、都市住民の医療、衛生、保

健、福祉の向上をはかる意図から「社区17) 」という地域住民の生活共同体を組織した。長春市

に在住する者は、家庭を単位として基本医療保険に加入することができる。都市住民は、戸籍

に所在する社区で《長春市城鎮住民基本医療保険家庭参保登録表》という登録手続きを申請す

る。その後、保険料納付通知書を持参して、銀行の窓口で保険料の口座振込み委託手続きをす

る。家庭ごとに 1つの口座で全員の保険料を納める。滞納した場合、医療給付サービスを受け

ることができない。地方政府の補助金を受ける者は、その証明書類を提示して、手続きをしな

ければならない。基本医療保険を加入した家庭は、保険料を納めた 1 ヶ月後、その納費通帳を

提示すれば、社区から医療保険書を受け取ることができる。したがって、社区は長春市居住者

が基本医療保険を加入する窓口になっている。





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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4 .長春市における現行医療保険制度の限界

上述のごとく、長春市における現行都市部基本医療保険制度は、すでにいくつかの成果をあ

げている。しかし、限界があることも否定できない。本節では、その点について検討する。

(1) 医療給付額の限界

都市部基本医療保険制度の加入者は 、重大疾病補助制度にも加入している。重大疾病医療補助

制度は、基本医療保険制度の補助医療保険である。補助の対象は、基本医療保険の加入者であり、

補助範囲は、基本医療保険の最高給付限度以上の部分である。そして、各地の経済状況によって、具

体的な個人負担の割合が決められている。

長春市 においても、医療給付最高限

度額が設けられている。都市部の居

住者は基本医療保険に加

入した年度内に入院したさい、その治療費が限度額内の比率で給付される。都市部の一般住民の最

高限度額は4.5 万元である。そのうち、中小学校学生、児童と十八歳未満の学校に在籍してない都

市部住民の最高限度額が

5 万元で、白血病及び悪性腫瘍を掛かった中小学生と児童の最高限度

額が 6万元である18) 。

未成年者の発病率が高い白血病を例 として、医療費の問題をとりあげてみよう。医学統計結

果から、中国で毎年白血病にかかる

未成年者は 2万人いる。その中の

40%は児童(0~6歳)で

ある。2~7 歳の割合が最も大きい。白血病にかかる児童のほとんどは、急性リンパ細胞性の白

血病であり、治療を続ければ、

90 %が完治可能である。しかし、白血病治療における 1 回目の

化学治療費用は 2万元で、その後半月か

1ヶ月ごとに 1回の治療費は 3000 元程度である。病状

が安定するまで、十何万元かが必要であるが、もし血幹細胞移植の治療をすれば、さらに何十

万元が必要である。あまりに高額であるがゆえに、経済的な原因で治療を諦める患者の割合は

92 %にのぼる。未成年者の医療費の問題は、注目される社会問題になっている。未成年者、と

くに0~7 歳の幼児・児童の罹病率が高いため、未成年者の商業医療保険は、商業

保険業者にと

って、賠償率が高い割に、利益が少

ない。人気のある貯蓄型の医療保険

は、重病に罹った場合、

高額な保険金が支払われるが、しかしこちらは料金も高い。

(2) 医療保障範囲の限界

中国における上位の疾病死亡原因を 見ると、それは①悪性腫瘍、②脳血管病(脳卒中)、③心臓病

である。これらは、年齢の上昇とともに発生率が高くなる慢性疾患(日本では三大成人病と総称)である

が、これらが占める死亡割合が上昇しつつある(表 7)。





現代社会文化研究No.44 2009年3月

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表7 疾病による死因のトップ5

1998年 2004

年 2007年

脳血管病

22.60%悪性腫瘍

23.92%悪性腫瘍

28.53%

悪性腫瘍

22.30%脳血管病

19.09%脳血管病

18.04%

呼吸器系病

17.30%心臓病

18.80%心臓病

16.29%

心臓病

14.10%

呼吸器系病

13.12%

呼吸器系病

13.10%

損傷・中毒

6.30%損傷・中毒

5.89%損傷・中毒

6.09%

三大成人病

62.20%三大成人病

61.81%三大成人病

62.86%

出所:『中国統計年鑑』1999 年版、2005 年版、2008 年版より作成。

「大病」とは、日常的な病気ではなくて、非常に高い治療費を要する、あるいは治療に長い期間を要

するような病気、つまり長期入院を要するような病気を総括した名称である。先に述べたように、導入さ

れた基本医療保険制度では、支給に上限がある。したがって、大病に対する対応は別に考える必要が

ある。

慢性疾患の治療費は非常に高く、癌の手術では何万元も必要といわれている。(旧)公費医療制度

では、このような大病についてもすべて企業が負担する仕組みであった

。例えば、国有企業は、従業員

や退職者の医療費をすべて負担して いた。しかし現行制度の下では、従業員が腎臓移植手術を行わ

れる場合、10 万元を要したが、全額を会社が負担しているわけではない。すなわち、新しい医療保険制

度では、地域の医療保険基金からの支給限度額を当地の従業員平均年収の 4 倍に定め、超過する部

分については補完保険や民間保険で

対応する方針になっている。長春市

における基本医療保険制度

の場合、最高給付限度金額を

39008 元に設定されているが、公務員は医療補助金 4 万元を受けること

ができる。また、大病救助限度額は 15 万元に設定されている(前提表 4)。

近年、医療費の急上昇が社会、企業、個人に経済的に重い負担となっている。一方、安定した収入

が得られる社会階層にとっては、基本医療保険が最も「基本」的な医療保障となっている。しかし、かれ

らにとっても、この公的医療制度だけでは医療サービスに対する高いニーズに対応できない。したがっ

て、商業保険が、潜在的医療費用のリスクを和らげる。基本医療保険の補足として期待されることになる。

また、たとえば自営業で大成功しているような、基本医療保険でカバーされていない高所得者にとって、

商業医療保険への加入は、医療費問題の解決策になりうる。現在、商業健康保険は社会医療保険の

補充保険及び少数裕福層を対象とする独立保険として力を発揮させるこ

とが、中国政府の一つの方針

になっている。それに対し、日本の公的医療保険制度の中には高額療養費制度を設けられている。長

期入院や治療が長引く場合などで、1 か月の医療費の自己負担額が高額となった場合に、一定

の金額(自己負担限度額)を超えた部分が払い戻される。日中の制度差は隔絶的である。





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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(3) 各種医療サービスの限界

長春市での居住者は、基本医療保険

制度に加入しても、「いつでも、どこでも、誰でも医療



ービスを受けることができない」情状が現実的に存在している。この点、日本とは大いに異な

る。長春市では、以下のような状況が発生した場合、正規の手続きをとらないと、医療サービ

スを受けられなくなってしまう。

・転院する場合

基本医療保険制度の加入者は、

初めて入院するとき、まず登録しなければならない。ついで、

被保険者はランクによって、指定医療機関へ医療サービスをうける。基本医療保険の保険証を

持参して、市レベル(市レベルと省腫瘍医院を含む)以下の指定医療機関へ受診入院する。病

状によって、転院する必要があれば、初めて受診した指定医療機関で、転院登録手続きをしな

ければならない。そうしない場合、発生した入院治療費は自己負担になる。

また、他の地域の病院へ転院する場合、指定省レベル総合病院あるいは市レベル以上専門科

病院に転院手続きをし、さらに市医療保険管理センターへ審査手続きをしなければならない。

転院した後発生した医療費は

50 %自己負担になる。両手続きをしな

かった場合は、全額自己負

担になる。

・急診の場合

急診、救急された患者は近くの省レベル指定医療機関で受診入院し、治療を受けることがで

きる。そのとき、その家族は必ず毎月の「5 仕事日」(中国語:5 个工作日)内に急診入院証明

とその関連資料を持参し、市医療保険管理機構へ通報しなければならない。急診、救急を除い

て、保険加入者が選択していない指定医療機関でかかった医療費は、全額自己負担になる。

・保険が中断した場合

長春市基本医療保険制度の加入者 は、保険料を滞納した場合であっても、3 ヶ月以内に支払

えば、支払日の翌日から入院医療保険給付を受けることができる。3 ヶ月以降になると、新規

契約の納費基準になり、新たに納費した 2 ヶ月後から医療給付を受けられることになる。滞納

期間が 1年を超えた場合、期間中で入院治療給付を受けない者は最高 3 年間滞納費用を納めな

ければならない。この間に入院治療給付を受けた者は、滞納保険料の全額を納めなければなら

ない。

(4) 高齢者(退職者)医療費の問題

中国でも高齢化の進行により、今後

さらに医療支出が膨らむ見通しであ

る。

1998 年に発表された新

しい医療保険制度では、退職者も現役従業員と同じ制度に加入するが、個人には保険料納付義務が

ない。また、個人口座への繰り入れ金額や診療時の個人負担割合について便宜を与えることが規定さ





現代社会文化研究No.44 2009年3月

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れている。なお、離休者(建国前の革命に参加した者)についての医療は従来通りの扱いとなっている。

すなわち、旧来の公費医療制度が継続されることとなる。その理由は、離休者は数的に非常に少ないこ

とと、かなり高齢であるためと思われる。

ところで、中国の退職年齢は男性

60歳、女性 50~55歳であり、いわゆる高齢者(60 歳あるいは 65

歳以上 )という概念より少し広い。

今後高齢者の増加や平均年齢の上昇

が見込まれること、死因におけ

る慢性疾患の割合の増大、そして高齢者の高齢化が進めば病気の発生率が増加することなどを考える

と、退職者に関する医療費は今後も増大する可能性が高い。図 1 が示すように、長春市で離・退職者の

割合が高く占めている.医療保険制度では退職者の分も含めて現役世代の保険料でカバーする仕組

みとなっているが、これでは現役世代の医療支出が圧迫される可能性がある。一定年齢以上の老人に

関わる医療費については、個別に管

理して支出の状態を検証し、不足分への財政支援を行うなどの対

応を検討する必要があると思われる 。また、現在の退職者が高い養老金

待遇を享受しているとすれば、

一律に保険料を免除するのが妥当か どうかという問題もある。現在、医療保険制度改革に併行して、医

療衛生機構の管理、治療方法や薬剤使用に関する基準などが整備されつつあり、不合理な支出があ

る程度抑制されることが期待される 。しかし高齢者向け医療費に対しては早めの手当が必要である。

現在、日本の高齢化の進行速度は世界一であり、医療保険財政上大きな課題となっている。対する

中国は、「1人子政策」の影響がこれから、より顕在化する。

図1 長春市における離・退職者と在職者の割合 (単位:万人)

0

20

40

60

80

100

120

離・退職者

在職者

出典:中国統計局出版 各年度の『吉林統計年鑑』より作成。

むすび

1998 年に「決定」が確立された。それを受けて、長春市は基本医療保険制度を 2001 年から

導入した。それからすでに

2008 年までに 7年の歳月を流れた。いまだいわば実

験段階にある長

春市・基本医療保険制度を評価することに難しい面もある。しかし、あえて小稿ではその成果





市場経済転化後における中国医療保険制度の現状(舒)

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と問題点をあげることにつとめた。

他方で、改革開放以来、外資系企業、私営企業、郷鎮企業、私営企業など非国有セクターが

著しく成長し、企業形態の多様化がすすんでいる。この点に関し、長春市は基本医療保険の加

入者数についての数字を公表してい る。だが、加入率は公表されていない。私は、都市と農村

の「二重構造医療保険」問題も含めて、今後の課題としたい。

<注>

1)「統収統支」とは、①一切の収支項目、支出方法と支出指標をすべて中央が統一的に設定すること、②

一切の財政収支はすべて国家予算に 組み入れられ、収入はすべて中央に上納され、支出は中央から支給

され、年度末の余剰金も基本的にはすべて中央に上納されること、③財政の権限は中央に集中している

ことである。

2)「人民公社」とは、農業従事者である個人農を共同体的な集団組織に所属させることによって、農業の

計画化を実現した。

3) 第2次産業を中心とする非第1次産業に従事する者を国有企業に所属させることによって、中央政府

による統一管理が容易にできるようにした。

4) 中国の国家財政とは、日本の国の予算という用語と違って、中央政府の財政と地方政府の財政の両方

を含むものであり、中央予算と地方予算からなる。したがって、中国の中央予算は日本の国の予算に相

当する用語である。予算のほかに、予算外資金というものが存在しているため、総合的に見れば、中国

の財政は予算内財政と予算外財政か らなる。予算外財政は日本にはないものであるが、その一部(例え

ば、道路整備、都市維持など)は、日本の特別会計予算の性格をもつようである。

5)「単位」とは、新中国成立後、

戸籍制度の成立と併せて、50 年代

後半、都市戸籍の人々は「国有企業」、

農村戸籍の人々は「人民公社」に統合されることから始まった。これら「国有企業」「人民公社」は「単

位」とされ、就業者だけではなく、家族もそれぞれの「単位」に所属することになる。人々は「単位」

に全て依存することになった。そして、この「単位」が職業、住宅、年金、医療などの福利厚生の全て

を担うことになる。人員規模の大きな「単位」は、幼稚園や小中学校ばかりでなく、大学、病院なども

自前で抱えていた。

6) 経営自主権について、「放権」→これまでに中央政府に集中していた生産と経営の意思決定権や資金の

使用・割当の権利を企業と地方政府に譲渡する。「譲利」→これまで中央政府に吸い上げていたほぼす

べての企業利潤と地方財政収入の一部を企業と地方政府に割り当てる。

7) 18歳未満の未成年者を指す。

8) 吉林省統計局『2007吉林統計年鑑』21-1城市経済基本状況 中国統計出版社(電子版)。

9) 中国統計出版社『2002年吉林年鑑』P.283。

10) 吉林省統計局『2008吉林統計年鑑』21-1城市経済基本状況 中国統計出版社(電子版)。

11) 吉林省統計局『2007吉林統計年鑑』21-1城市経済基本状況 中国統計出版社(電子版)。

12) http://www.changchuntaxi.com 2007年3月28日。

13) 国家の基本医療保険制度は加入者の基本的医療需要を満たすが、基本医療保険の適用範囲を超えた医

療サービスに関しては他の医療保険 で補完する必要がある。補充医療保

険は基本医療保険の補充形式の

一つであり、中国で成立している多層的な医療保障の重要な構成要素の一つである。基本医療保険とは

異なり、補充医療保険は国家が立案し実施を強制しているものではなく、雇用側と個人が自由に加入す

るものである。補充保険には一般的二種類の方式がある。一つは、企業組織が保険の徴収・分配原則に

則って補充医療保険基金を設立する 企業補充医療保険であり、もう一つは、商業保険会社を利用する商

業補充保険である。

14) 中国には、「档案管理制度」という制度があり、ある一定以上の基準の労働者につき、その個人情報

を保管管理する「人事档案」制度というものがある。(所属する職場・機関・団体の人事部門が保管す

る)個人の身上調書、行状記録、正式には人事档案という。

15) 中国統計出版社『2008吉林統計年鑑』21-1城市経済基本状況(電子版)。

16)「小病大養」というのは、小さい病気なのに、レベルが高い医療機関で治療することである。

17)「社区」というのは、中国に

存在する、住民による自治組織である。もしくは行政の末端機関である。

管理区域の社会の事務として、再就職サポート、コミュニティサービスの供給、対高齢者福祉サービス

などの役割を果たす。





現代社会文化研究No.44 2009年3月

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18) 以下は長春市労働和社会保障局『長春市城鎮居民基本医療保険政策解読』を参考にした。

主指導教員(斎藤忠雄教授)、副指導教員(加藤智章教授・真水康樹教授)

ウエッブサイト:-------http://www.pdffind.com/pdf/2smff/

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